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デッドゾーンのMOCOのレビュー・感想・評価

デッドゾーン(1983年製作の映画)
5.0
「サラ、今までずっと秘密にしてきたけれどこれ以上は隠せない。
 僕に備わったパワーを今は神の恵みと思っている。
 君には理解できないだろうが僕の行動は正しいと信じている、この手紙が届く頃にはすべてが終わっているはずだ」

 スティーヴン・キングの小説の映画化は、数えきれないくらいあるのですが、一番出来のいい映画です。怪獣や宇宙人が出てこないだけに、見易いのかもしれません。
 冒頭ジェットコースターで主人公が頭をかかえるシーンがあるのですが、その理由を説明する場面は最後まで出てきません。この小説はかなりの長編で、小説では重要な意味が含まれているのですが、上映時間の都合上カットされています。このシーンが残っているのは、クローネンバーグ監督も製作当初はラストシーンでジョニーが持つことになった能力についての秘密を公開する予定だったと思われます。しかしカットされた部分を差し引いて製作されていても面白い見応えのある作品です。

 高校教師のジョニーは恋人サラとのデートの後、自動車事故に巻き込まれ、昏睡状態に陥ります。5年の歳月が流れ目覚めると、ジョニーの父の勧めでサラはすでにほかの男性と結婚して母親になっていました。
 ジョニーは生身の体が接触することで、相手の過去や未来が見えてしまう特殊な能力を身につけてしまい、奇異の目で見られ一度はその力を使わないようにするのですが、警察の依頼で連続強姦殺人事件の捜査に協力し心身ともに深く傷つき、自ら親元を離れ静かな生活を送るようになります。
 ある日、新進の地元政治家グレッグ・スティルソンに無理やり握手をされたジョニーは、アメリカ合衆国大統領になったスティルソンがアメリカの歴史に名前を残すために核ミサイルのボタンを押す未来を見てしまいます。
 数々の経験で見た未来を変えることができる事を知っているジョニーはスティルソンを暗殺すべく演説会場に忍び込むのですが、スティルソンを暗殺することはできず銃弾に倒れてしまいます。スティルソンが華々しく表紙を飾る雑誌『ライフ』を最後の力をふりしぼり手にすると・・・。

 アメリカでの評価は高く、クローネンバーグ監督の出世作となったのですが、日本ではビデオ販売の後ミニシアターでの興行になった不思議な作品です(当時の配給会社のバイヤーに見る目がなかったのでしょうね)。
観るべき作品です。

 小説はジョニー・スミスの人生を描く一方で、グレッグ・スティルソンの人生も描きながらすすみ、やがてふたりが出会うのですが映画はジョニーの人生をうまく抜き出して製作されています。
 小説のエピローグにあるジョニーのスティルソン暗殺未遂の調査をした上院委員会の聴取の写しや、医師の証言に目を通すと、映画では語られなかったジョニーがこの能力を手に入れたのは事故には関係ないかもしれないという新事実を知ることができます。
 冒頭の頭を抱えるシーンの謎がここに隠されています。

 因みに「デッドゾーン」とは脳の活動していない部分を表現しています。20世紀後半まで人間の脳は10%程度しか活動していないというのが定説でした。
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