タケオ

ジーザスキャンプ 〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜のタケオのレビュー・感想・評価

3.8
 「中絶反対‼︎人殺し反対‼︎」と、子供たちがシュプレヒコールをあげる。その目には、大粒の涙を滲ませている。説教師が壇上に立ち、子供たちに胎児の模型を見せながら大声で叫ぶ。「イエスよ、その血で私と国の罪をお清めください‼︎神よ、中絶を禁止しアメリカに信仰の復活をもたらしください‼︎神と交わした契約を破ってはならない、中絶の禁止を‼︎中絶の禁止を‼︎」
 キリスト教福音派が主宰するサマーキャンプを追ったドキュメンタリー『ジーザス・キャンプ〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜』(06年)でも特に印象的な一場面だ。サマーキャンプに参加している子供たちの大半は学校には通わず、ホームスクールで親たちから福音派独自の教育を受けている。なぜなら公教育は「進化論なるデタラメも教えて創造論をないがしろにしている」からだ。子供たちは親から、聖書に書いてあることは全て本当のこと(=聖書無謬説)だと教え込まれる。世界が誕生したのは6000年前で、ビッグバンなどというものはなく、全ての動物は神さまがつくったものだと。中絶反対を叫び、科学など戯言だとのたまい、キリスト教原理主義を推奨するジョージ・W・ブッシュを信奉する。子供たちは、「キリストの戦士」となるべく日々鍛えられているのだ。「民主主義や科学なんてものよりも、神様の教えの方が大事にきまっている。これは洗脳じゃない、私たちはただ真実を教えているにすぎない」と、説教師のベッキー・フィッシャーは主張する。『ジーザス・キャンプ』には一切のナレーションがない。サマーキャンプの様子を淡々と映し出していくだけで、全ての解釈は鑑賞者に委ねられることとなる。
 説教師や親からの教えに盲目的に従い、「神」を崇める子供たち。その姿を「気の毒だ」と憐れみ、「イかれている」と一笑に付すのは簡単だ。しかし、本当に僕たちはその姿を笑うことができるのだろうか?まったく異なる「他者」の目から見た時、今の自分たちの生き方が「正気」だと言い切ることはできるのだろうか?という疑念も脳裏をよぎる。生まれた瞬間から逃れることのできない閉じたサークル。『ヘレディタリー/継承』(18年)でも描かれていた普遍的な恐怖。すなわち「家族という名の呪い」の存在を、『ジーザス・キャンプ〜』は垣間見せてくれるのである。
タケオ

タケオ