シズヲ

タバコ・ロードのシズヲのレビュー・感想・評価

タバコ・ロード(1941年製作の映画)
3.4
アメリカ南部の貧困農民を描いた戯曲の映画化作品。甲高く喋るチャールズ・グレープウィンの演技が妙な愛嬌に満ちてて印象に残る。タバコ・ロードの栄枯盛衰ぶりが白々しく語られる冒頭のナレーションから顕著だが、社会から取り残されたプアホワイトの悲哀を描きつつも全編に渡ってコメディ的。

登場人物はやたら病的なテンションで捲し立てるので妙にエネルギッシュ。娘婿から寄ってたかってカブをぶん取る下りなどがシュールで味わい深い。良くも悪くも変な面々が目立ち、中でも常に大騒ぎしている息子は特に狂っていて凄まじい。大仰な演技も相俟っていちいち戯画的で、自動車によるドタバタしたシーンの破壊的な勢いなんかもいっそ清々しい。境遇からすれば明らかに悲壮感がある割にやたらめったら狂騒的。

そんな中で主人公が自身の不幸を神に呼びかける夜中のシーンや救貧院へと向かう途中のカットなど、要所要所で彼らの遣る瀬無い哀愁が端的に描かれているのが良い。貧困の中で常に描かれる“神への信仰心”という最後のよすが、そしてアメリカ的な“土地への帰属意識”などの描写が印象深い。かつての南部貴族の成れの果てめいた廃墟の豪邸に味わいを感じる。フォード的な撮影の陰影もまた本作の味をより深めている。

悲喜劇めいた筋書きではあったものの、ラストでは一筋の希望が指すので何だかんだホッとしてしまう。まぁ全体的にそんなに好みのテンションではないけど、印象には残る。
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