ハマジン

こおろぎのハマジンのレビュー・感想・評価

こおろぎ(2006年製作の映画)
3.0
盲目で唖者の男と中年の女との、二重三重によじれた共依存生活。男の靴の片方を隠し、パンプスで一人散歩をさせる陰湿さ。しかし当の女もピンヒールの靴(女性の装具自体の拘束性)を履きつづける。抑圧された者が別の弱者を抑圧する柔らかな暴力が、男の生命を次第に弱らせていく。
隠喩的な見方をすればするほどひたすら陳腐に見える映画で、それでも画と音、俳優の身振り一つ一つの有無を言わせぬ力と生々しさで、作品として成立させてしまうのは至芸。シャツのタグを赤いハサミでプツンと切る瞬間BGMが途切れるくだりなど、枝切りのカット同様「去勢」がほのめかされていることに辟易としつつ、その編集の鋭さに見とれてしまう。玄関前の階段で吸った煙草の始末をするところなど、細部の仕草が二人の生活にただよう静かな緊張感を持続させる。
フェリーニ風ファンタジーにすっ飛ぶ後半の展開には、エンデ『モモ』の引用含めいささか興醒め。
西伊豆町安良里の入江から立ちのぼる光と大気に触れるような、たむらまさきのカメラ。
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