もものけ

血ぬられた墓標のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

血ぬられた墓標(1960年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

かつて吸血鬼として葬られ"悪魔の仮面"をつけられて封印された王女アーサの眠る地で、モスクワへ向かう道中に馬車が壊れ立ち往生していると廃墟の館を見つける。
そこには朽ち果てた棺があり、好奇心から中を開けるクルヴァヤン教授と助手ゴロベックが見たのは、まだ生きているかのような美しい女性が眠っている姿だった…。




感想。
Wikipediaによるとイタリアン・ゴシック・ホラー映画の絶叫クィーンであるバーバラ・スティールの美しさが際立つデビュー作でありながら二役を演じ、同じくイタリアン・ホラー映画黄金時代を作った一人とされるマリオ・バーヴァ監督のデビュー作でもある気合の入った意欲的作品、後に息子が「デモンズ5」としてリメイク版を製作したとも言われています。

初期のイタリアン・ホラー映画なので、いつもの投げっぱなしジャーマン的な支離滅裂さは全くなく、しっかりとゴシック・ホラー映画として製作されているので、安心して愉しめる作品となっております。
映像はモノクロですが、カメラ構図もしっかりと動きのある構成になっており、不気味な音楽がより一層ゴシック・ホラー映画として効果的に使われ、装飾品などのセットも豪華絢爛であり、あのイタリアン・ホラー映画とは思えないほど、ハリウッドのゴシック・ホラー映画そのものの作品でした。

この"悪魔の石仮面"をつけられ封印された吸血鬼という設定は、荒木飛呂彦が映画マニアなだけあり、「ジョジョの奇妙な冒険」でモデルにした作品であるように思えます。
吸血鬼=男性で美女を襲うという設定の時代に、吸血鬼王女=女性が下僕として吸血鬼=男性を操る斬新さは、ブラム・ストーカーの小説とはまた違った面白さがあって良いです。
ここまで練り込まれたストーリーは、それもそのはずロシアの小説家ニコライ・ゴーゴリ原作"ヴィイ"の映画化であるので、いきあたりばったりなイタリアン・ホラー映画とは違い、既に完成されたストーリーを作品にしているためでございます。
現代の吸血鬼作風としましては"儚い永遠の命"がテーマでございますが、ブラム・ストーカーの小説が基盤となる当時は"生き延びる為に人間を利用する怪物"のイメージがテーマとなっており、ゴシック・ホラー映画として「血塗られた墓碑」もこちらの路線をとっております。
ここに魔性の美貌を持つ女吸血鬼が復讐を果たす為に復活するストーリーは、「ドラキュラ」と似て非なるものがあるオリジナリティ溢れる物語です。

モノクロ作品であり現代ホラー映画のようなスプラッターで視覚的に訴える効果もない時代なので、一見すると恐怖感がないように思えますが、これがまた完璧に作り込まれたセットとイタリアン・ホラー独特なグロテスクな演出が相まって、見事に恐怖感を演出しております。
こういった作風で続ければマリオ・バーヴァ監督作品は、ホラー映画の巨匠として晩年まで過ごせたのではないのかと思えるほど、素晴らしいセンスを持っていた時代であり、後の作品の支離滅裂さが当たり前になるイタリアン・ホラー映画に染まる監督作品の残念さがより感じられるほど、完成度が高い作品です。

ワンカットでアーサに生気を吸われて朽ちてゆくカティアの顔が、老婆のようになるシーンは、なかなか見応えがあり、吸血鬼(魔女)アーサに魅了されてカティアを殺しそうになり、胸に付けた十字架で見分けるという演出も古典ホラーならではの良さを、技術で映像にしています。
顔は美女なのに、マントの下の身体が朽ち果てているグロテスクな描写もまさにホラー映画、上手く映像化していて古い作品ながら素晴らしい出来栄えです。

しっかりと古典ホラーの醍醐味を取り込んで、魔女として焼かれたアーサに成り代わり、生気を取り戻すカティアでハッピーエンドという物語。

古き良き古典ホラー映画に出会えて、4点を付けさせていただきました!
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