オシリー

ヒミズのオシリーのレビュー・感想・評価

ヒミズ(2011年製作の映画)
5.0
舞台は震災直後の福島。少年は小さな釣り堀小屋の荒れ果てた家庭で暮らしている。小屋の周りには震災ですべてを失い、身を寄せ合って生きる浮浪者たち。少年は浮浪者たちに囲まれながら、ふつうの幸せを夢見て過ごしている。そして少年の抱える絶望に共感し、救いの手を差し伸べようとする少女。少女もまた、ふつうの幸せを生きることを切望する。それまでのすべてを、ある日突然奪われ、縋るものを失くした神なき時代、或いは親なき時代。誰もがみなそれぞれの闇を抱えることを強いられた。現実が生々しく丸裸にされて容赦なくその病をみせつける。昨日も、今日も、明日も、すべてがわかってしまったのだ。自分がその現実のどこにいるのか、ということ以外は。その眼はくらやみしか映さない。身体は痛みしか感じなくなった。自分で自分を罰すること以外に、もうおれが生きていける道はない。その道の行き着く先は自死である。灯りを灯さなくてはならない。くらやみで分岐をみつけるために。次の時代に生きる少年少女のために。しかし他人が出来ることはそれだけだ。もらった灯りをつけたり、消したり、それは自分で選ばなくてはならない。津波はすべてを奪い、そして与えていった。与えられて、身体にこびりついた呪いを、痛みを伴いながらも海に還すことが必要なのかもしれない。それは死ぬためではなく、もう一度生きるために。
オシリー

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