オシリー

ヘレディタリー/継承のオシリーのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.5
執拗なまでに丁寧な恐怖。といった感じ。圧倒的な描写力の前に自分がいるはずの現実が支配されるような。と言うと少し大袈裟かもしれないが、冒頭からあれだけ大胆に入れ子の構造を明かしておきながらも徐々に虚構の映像世界に没入させられるのは、各シーンの具さな描写にいちいち説得力があるからだろう。それを下支えしているのは冷淡な理性、とでも言うべきものか。登場人物のアニーもまた本来は理性的なリアリスト。細密なミニチュアの模型を作ることが出来るのは現実を正しく認識し、虚構の世界との境界線を明確に認識していることの証拠である。しかし次第にその均衡が崩れ、現実に虚構が、虚構が現実に入り乱れ、互いの領域を犯して境界線が曖昧になっていく。虚構の世界から漏れ出たインクがメモ用紙に色をつけるような。感覚が、精神が、時間が、事実が錯綜を重ねる。もはや理性は使い物にならない。なんてこった。恐い。わけのわからん奴らはやはり恐い。しかし、なんと丁寧に仕組まれた恐慌か。凄絶に静かな湖面に映る風景に、ピンと張り詰める緊張感。一滴の動揺が、湖面を揺らして波紋を描いた。波紋は広がるほど大きくなっていく。克明に描いてきた画が崩壊する様。カタストロフの美しさ。そして波紋は収まって、湖面、それに映っている風景は元通り。本当にそうか?
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