オシリー

桐島、部活やめるってよのオシリーのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
4.0
どこにでもある高校を舞台にした主役不在の群像劇。登場人物の全員にそれぞれの立場と視点があり、しかし全員が脇役である。陳腐なお約束展開やご都合主義な物語は裏切られて、誰もがことごとく主役になることがない。それゆえに、誰もが、なにかを言うことがない。自分の説明を所属する集団でするもの、他人に自分の価値を委ねるもの、和を乱すことを恐れて調子を合わせるもの、なにも選べなくてどっちつかずなもの、こういったどこにでもいるごくふつうな登場人物たちが桐島という主役不在の状態でいかに物語をつくりあげるのか。生活には、現実には、ただ自分の立場からみること、があって、それは自分が主役であるということではなく、ただ視点がひとの数だけあるということだと思った。きっと、桐島はみんなにとっての主役、言い換えれば道しるべのようなものだった。しかしある日突然道しるべがなくなってどこに行けばいいのか、自分がなにものであるのかわからなくなる。こうして頼るものがなくなった世界で、どっちつかずのなにものでもなかったひろきは、自分が次の主役であることに気づいたのかもしれない。つまり、主役がいなくなった、あるいはそもそも主役なんていない世界では、自分が主役になるしかない。自分がなにものになるのか決められるのは自分だけだから。
今作は内容と映像がとてもよく噛み合っていると思った。立場や視点が重要なポイントだが、構図や視線誘導が非常に巧みで映像への没入感が印象的だった。丁寧な画づくりや美しい映像は、本作のもつメッセージである、なにも言わないこととマッチしていて面白かった。
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