オシリー

そうして私たちはプールに金魚を、のオシリーのレビュー・感想・評価

5.0
おれたちはかつて子どもで、狭くて息苦しい水槽に閉じ込められていることが嫌で嫌で仕方がなかった。いつしかその狭さにも慣れて、なにも感じなくなる。そこから抜け出そうともがく者を、批難の目でみることしか出来なくなる。自分がかつて同じようにもがいていたことを忘れてしまう。海は偶像。この狭くて息苦しい水槽から抜け出したとしても、そんなものは所詮は幻想でしかないのだろう。でも、それでも、わたしはいま、生きている。だから証明したい。自分たちにいまがあったことを。海はなくても、プールくらいならあるかもしれないじゃないか。
今作では大人の勝手な印象としての子どもではなく、実際の子どもの感覚が生々しく、瑞々しく描かれていて驚いた。10代の頃に感じていたどうしようもない閉塞感。周りの大人は子どもに自分勝手で無責任な理想の子どもを押し付けるけど子どもは大人が思っているより子どもじゃない。しっかり考えて、苦しんで、諦めてる。手がかからないいい子っていうのはそういうものだ。おれはこれを35歳のいい歳したおっさんが映画にしていることに希望があると思う。子どもであることを忘れてしまった大人たちばかりのくだらない世の中に、子どもの味方をしてくれる大人がいる。大人に理解出来ない子どもの論理を、きちんと代弁してくれる大人がいる。今作も、実際にあった、ただの子どものいたずらとして解釈されるであろう事件を題材にして、子どもが本当に言いたかったことを作品にして伝えてくれている。感動したし、感謝したいと思った。
映像や音楽、脚本、展開、役者の演技に新しさがあってその新しさがじつに魅力的なこともすごくうれしい。大人の論理に支配されている世の中に、新しい魅力が創造されることはそれ自体が世界に対するカウンターアタックだ。映像を志す者として、ひとりの子どもとして、出会ってよかった一本だと、心から思った。
オシリー

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