タケオ

ブラックホーク・ダウンのタケオのレビュー・感想・評価

ブラックホーク・ダウン(2001年製作の映画)
4.1
 ソマリア内戦の激化によって戦争難民が急激に増加した。1991年に国際連合は難民への食糧支援を行うために、ソマリア内戦への軍事介入を決定。1992年、ソマリア内戦の収束のために、アメリカ軍を中心とした多国籍軍を現地へ派遣した。一方でその傍ら、アメリカ軍は第42代アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンの独自判断により、ある作戦を実行に移そうとしていた。作戦コードは「アイリーン」。その内容は、ソマリア民兵の将軍モハメッド・ファッラ・アイディードの側近オマール・サラッド・エルミンとモハメッド・ハッサン・エワレの2人を捕らえるというもの。用意周到に練られた作戦は、30分程度で完了するはずだった——。
 しかし、作戦が決行されるや否や事態は急変。ソマリア民兵とともに暴徒たちが大量に押し寄せ、2機のヘリコプターが墜落、19名のアメリカ兵が死亡、200人を超すソマリア市民が命を落とす大惨事へと発展。約15時間を費やし、なんとか作戦こそ成功させたものの、膨大な犠牲を払う結果となった。死亡したアメリカ兵2名の裸の遺体がソマリア市民たちに引き摺り回されるというショッキングな映像がCNNで放送されたことで、アメリカ国内では撤退を求める声が大きくなり、1994年にビル・クリントンはソマリアからの軍の撤退を決定。これをきっかけに、その他の国々も全て国連活動から撤退することとなる。後にこの事件は、世界中のメディアによって「モガディシュの戦闘」と名づけられた。
 『ブラックホーク・ダウン』(01年)は、そんな「モガディシュの戦闘」の様子を生々しいタッチで描き出した戦争映画の傑作だ。国民感情や遺族への配慮として直接的な表現は極力控えられているが、それでも目を逸らしたくなるような場面が満載なので注意が必要である。耳を劈く銃声、飛び散る瓦礫片、道に転がる死体、死体、死体。凄惨な映像のつるべ打ちには思わず息を呑む。実話の映画化ではあるが、『エイリアン』(79年)から一貫したリドリー・スコット監督らしいテーマもしっかりと顔を覗かせている。『エイリアン』の主人公たちがそうであったように、本作の主人公たちも「アメリカ軍」という大きな組織——ひいては「巨大なシステム」の一部に過ぎず、どれだけ足掻いたところで何一つとして事態を変えることはできない。一度動き出したが最後、決して止まることのない「巨大なシステム」としての戦争の恐ろしさと、そんな「巨大なシステム」から逃れることができない人間の「無力さ」というテーマが、作品を覆い尽くしつている。
 「弾が頭をかすめた瞬間、政治やくだらん話は吹っ飛んじまうさ」という台詞からも分かるように、『ブラックホーク・ダウン』は何が正しくて何が間違っているのかを鑑賞者に問うような作品ではない。ただひたすらに積み上げられていく死体の山が、鑑賞者に圧倒的な虚無感と無力感を伝えてくる。『ブラックホーク・ダウン』には最もらしい教訓も、感傷的なメッセージも、お涙頂戴な展開も何もない。この作品を鑑賞して何か言えることがあるとすれば、それはただ一つ。「戦争は地獄だ」ということだけだ。
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