Ricola

赤い砂漠のRicolaのレビュー・感想・評価

赤い砂漠(1964年製作の映画)
3.8
アントニオーニ監督の初カラー作品とのことで、色使いなど鮮烈かつ実験的な試みが見られる。

冒頭から早速、ざらついたぼやけた映像が目に飛び込んでくる。
工場の排出しているガスの音や機械音に怯えるような表情をするジュリアーナ(モニカ・ヴィッティ)。
彼女の不安感こそがこの作品のテーマであるが、その感情が単に風景や彼女の周囲や彼女の放浪だけでなく、色彩にまで反映されているのだ。


工場のグレー寄りの白の排気ガスがもくもくとのぼり、辺りを埋め尽くしてしまう。
工場地帯から離れても、煙の代わりに白くて濃い霧が彼女に付きまとうのだ。

さまざまな場所を彼女は彷徨うが、まず彼女が現れる石だたみの街並みについて言及する。
道には雪が降り積もっているけれど、彼女のいた側の建物には白くなっていないという不思議な現象が起こっている。
そのため、ロマンチックだとか幻想的とかそういったものではなく、無機質な印象を受ける。

そして小屋の一角の、真っ赤に塗られた壁の中に押し込まれたかのように何人かで過ごすシーンはやはり印象的である。
皆で騒いでいてジュリアーナも一見楽しそうだけど、ふとした時に寂しそうな満ち足りていないような表情を見せる。
真っ赤な壁を壊し、そこから脱出しても彼女の抱く不安が消えることはない。

ジュリアーナの足元の不安定さも、彼女の不安感から来ているだろう。
ひらひらと舞い降りてきた一枚の新聞紙を足で踏みつけるも、風が吹いて新聞紙が足に絡まる。
また他のシーンでは、木による道が一部分だけ外れそうで、足でそこを踏むとグラつくのだ。
寒いのにいつもヒールを履いているし、そのヒールのせいで足元がおぼつかないようである。

「私を愛している人たちを一人残らずそばに置きたいの」
ジュリアーナの抱く不安というのは、まさに杞憂であるようで、ときにそれは彼女に幻想をも見せてしまう。

彷徨うことと不安というのは、アントニオーニ作品特有のテーマであるはずで、この作品も例外ではないだろう。
得体の知れない不安を常に抱えるジュリアーナが、近未来的な工場の複雑な造りやさまざまな色が押し出された各地を訪れること。
このような作品設定は、ジュリアーナの不安という可視化しえぬものを我々に提示するのに、やはり役に立っているはずである。
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