櫻

ひかりのまちの櫻のレビュー・感想・評価

ひかりのまち(1999年製作の映画)
-
きみがひかって見えるのは、すこしずつ燃えながらかわっていくからだ。この地上を脈動とほとんど同じ速度で歩いていくことは、それすなわち誰も見ることのできない星座を描くことと等しいことをきみはまだ知らない。すべての存在そのものは、わたしがどう思おうともうすでにそこにあるものとして存在している。その事実は自分ひとりの脳内ではどうにもできないくらいに膨大すぎるから、理解することよりもさきにあることだから、怖いけれどうれしい。最近仕事をかえて、1日になんどもいろんな人と出会い、その人の肉体やこころの疲れと向き合ってできるかぎりそれをやわらげて別れるということをしている。その繰り返しの中で人間のことをすきになったり心底あきらめたりしているうちに、この思いがとてもつよくなった。自分が以前と変わらずに生きていたなら出会えなかったかもしれない人が今目の前にいるんだと思うと、年齢も性別もさまざまこえてその人が生きているということが、まだ見ぬ星々が目の前にやってきてひかってくれているみたいでいとおしくなる。そして、わたしに時間をゆだねてくれたというその責任に心臓の音がはやくなるのがわかる。ここにいるのはその人の一瞬に過ぎなくても、そこにわたしが存在してしまうという事実はずっとのこる。台無しにもやすらぎにもしてしまえるのがおそろしいと思う。いとおしいとたのしいとくるしいとこわいとが、脳内でいつもめまぐるしくくるくるまわっている。こんなふうなのってわたしだけなのかな、と急に地球に生みおとされたばかりの赤子のような心持ちを捨てきれなくて、まなこはひかりの眩しさに細くつぶれる。きみがここにいることがうれしい。怖さにふるえながら、ずっとそう思っている。小雨にぬれた今夜の街は、ひとりで泣いたあとに見るやさしさににていたよ。この作品みたいだった。
櫻