シズヲ

スティングのシズヲのレビュー・感想・評価

スティング(1973年製作の映画)
4.6
※再レビュー

“THE STING(とどめの一撃)”

大物ギャングを騙くらかせ!コンゲーム映画の代表的作品。数年前に見た時は「思ってたよりまあまあかな」くらいの感想だったのに、リバイバル上映で久々に見たらめちゃくちゃ面白くてぶったまげてしまった。記憶していた以上に娯楽作としての完成度が高かったので仰天させられたし、同時に数年くらい前の自分の節穴ぶりにびっくりしてしまった。昔見た時は薄味で淡白だと思っていた作風さえも、今となっては明確な魅力として正しく咀嚼できてしまう。何だか不思議な感動に打ちのめされている。

W主演を務めるポール・ニューマン&ロバート・レッドフォードの粋な魅力は言わずもがな。両者のアンサンブルは間違いなく本作の骨子として成立している。ニューマン演じるゴンドーフ、身内を殺されたことやフッカーへの共感以上に“詐欺師としての矜持の再燃”に突き動かされているような不敵さが実に格好良い。そして悪役のロバート・ショウを始め、チャールズ・ダーニングやアイリーン・ブレナンなど脇を固めるキャスティングにも絶妙な味がある。役者陣の佇まいが様になっているスーツスタイルのファッションを中心に、1930'sのクラシカルな衣装設定も洒落てて非常に好き。タンクトップにサスペンダー+ハットという超ラフな部屋着スタイルですらポール・ニューマンがやると格好良いからズルい。

本作の魅力はどんでん返しと同じくらい物語の秀逸なテンポにある。終始ノンストップで描かれる詐欺計画の駆け引き、主軸と並行して絶えず描写される下準備のシークエンス、明快かつ簡潔に描かれる登場人物達など、とにかく映画を回していく手際が良い。極めてスマートな話運びによって展開が進んでいき、ドラマ部分に余計な下心や大仰さがない。それ故に端的かつスムーズな内容であり、尚且つ本作はそういった作風を飄々としたユーモアによって包みこんでいる。ネタバレしているか否かなど無関係に娯楽作としての質が高い。初見時はこういった内容を単調さと認識していたけれど、寧ろそれこそが本作のリズム感であることに再見で気付かされる。マーヴィン・ハムリッシュが編曲したラグタイムのユーモラスかつノスタルジックなメロディー、本作の軽妙洒脱なムードを象徴している。

進行上のストレスとなる要素は希薄でありながらも、小出しの山場やスリリングな窮地が的確に配置されているので終始エンタメ性を維持している。「ギャングとは別軸から主人公を陥れに来るスナイダー刑事の存在」や「カードシャッフルに失敗してブランクを匂わせるゴンドーフ」など、要所要所での緊張感がスムーズな展開に適度なスパイスを与えている。序盤でルーサーの奥さんが前科持ちであるとサラッと触れられたことが後々のスリルに繋がったりなど、フックの仕込みも端的で適切である。小手調べとなるポーカー対決の場面など飄々とした痛快さも挟み込みつつ、ラストの“とどめの一撃”へと向けて物語のフラグを収束させていく構成には唸らされてしまう。

同監督・同主演コンビの『明日に向って撃て!』もそうだったけど、モダンな作風にオールドスタイルの空気感を融和させているのがやはり心地良い。ユーモラスな場面転換や章題ごとのイラストなど、何処かノスタルジックな演出が幾度となく挟み込まれる。前述した衣装設定や音楽のお洒落さも相俟って、クラシックなイメージの魅力が全編に渡って存在感を放っている。フッカーが駅を経由しながら昼間の町中を逃走する下り、スラップスティック的で好き。ロバート・サーティースによる撮影も、強烈に印象的なカットは無いけれど手堅く魅力的な絵面を提供してくれる。

殺し屋とロネガンの不自然な伝達の乏しさなど振り返ってみれば引っかかる部分は幾らかあるものの、軽快なテンポのおかげで見ている最中は有無を言う間もなく作劇にのめり込んでしまう。余計なことは考えさせず、痛快で喜劇的な娯楽の世界へと観客を誘ってくれる。そして見終わった後には後味良く爽快な余韻を残してくれる。粋であり、軽妙であり、ユーモラスであること……物語の本質的な魅力を、この映画は備えているのだ。
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