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ジャバーウォッキーのsleepyのレビュー・感想・評価

ジャバーウォッキー(1978年製作の映画)
4.0
ギリアムの小汚い「中世」****

原題:Jabberwocky, 1977, UK, 105分

中世の架空のブルーノ王国。恋するグリセルダと婚姻することだけが望みの、素朴で無欲で純朴(すぎ)の、よくいえば好青年、悪くいえば愚鈍な主人公デニス(樽職人の子、マイケル・ペイリン。英モンティ・パイソンのメンバー)が世界に出て行き、成り行きに翻弄される物語。人食い竜のバケモンが出没し、村人を食い散らかし、パニックになり、皆は王に請願する。騎士ナンバーワンを決めるトーナメントが開かれて、そこにペイリンが巻き込まれてしまい、退治の旅に出るというのが骨子。

しかし本筋もそこそこにギリアムの狙いは暗黒の中世の猥雑で混沌とした世界再現とその不条理を暗いユーモアで描くことにある。爆笑はしないがフフッとなった。

ギリアムはもちろんモンティ・パイソンのメンバーであり、BBCのTV「空飛ぶモンティ・パイソン」の1人アニメーター。本作はそのギリアム流のシモネタ含みのブラッディな脱力叙事詩(壮大な血糊、ウ〇コ、ゴアあり)。初めて単独で監督した長編が本作。本作はこれまで観たどの中世モノ映画のLookよりも(私は専門家ではないので真偽はともかく)ぐずぐずで煙たくて汚く薄汚れてリアルに感じられた。衣装や小道具、オープンセットなどのクオリティが、低予算ながら尋常ではなく、画面の情報量は相当なもの。中世趣味と情熱が横溢している。これは中世の専門家でもあるパイソンの同僚テリー・ジョーンズにも因るところ大かも知れない(本業学者顔負けらしい)。
テリー・ベドフォードの撮影も自然光や焚き火などだけを使い、光が美しい作品だ。煙や霧、砂埃などがアクセントになって画面に動きと「らしさ」を持たせている。

オフ・ビートであり、ハリウッド映画ばかり観ている方にはぐだぐだ、チープに見えると思う。しかし展開のラインはきわめてシンプルで、
それゆえ奥深い様々な権力や運命への意地悪で軽やかな皮肉がみてとれる。機能しない統治、いいかげんな君主や腹黒い取り巻き、形式主義、庶民の蒙昧・教会の権威と腐敗、ギルドの残酷さ等をナンセンスの衣で包む(ギリアムは大学時代は政治学専攻)。この時代の文化・風俗・生活の知識が多ければより楽しめるかと。

ギリアムのアニメーション群の実写版の雰囲気を持ち、カリカチュアライズされた彼流の汚いおとぎ話、ブラックなコミックあるいは絵本といっていいかと思う。

タイトルはルイス・キャロルのナンセンス詩『ジャバウォックの詩』(Jabberwocky)から採られており、冒頭で触れられる(鏡の国のアリスThrough the Looking-Glassの作中詩)。これは怪物の名だ(作品中そうは呼ばれないが)。原典の挿絵を割と映画では忠実に再現している。

また、チェコの短編アニメ作家ヤン・シュヴァイクマイエルも同じ素材で1971年に短編を製作しているので購入時にお間違えないよう。そちらの邦題は「ジャバウォッキー」(英題は同じ)。私も本作を近時知ったが、ギリアム・ファンで未見の方、ぜひ。
公開は英国に遅れること3年の1980年。当時の海外評価も別れていたようで過度の期待は禁物だがどこか忘れがたい。邦盤ディスクはいまだ出ていない、と思う。

Jabberwocky, 1977, UK, オリジナルアスペクト比((もちろん劇場上映時比を指す)1.85:1 , 105分, カラー, ネガ、ポジとも35mm
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