東京キネマ

海角七号/君想う、国境の南の東京キネマのレビュー・感想・評価

3.8
ストーリーは大東亜戦争後に引き揚げた日本人教師が台湾人女性に宛てたラブレターに書かれた恋愛物語と、地元観光地の町おこしライブのために素人バンドを立ち上げる奮闘記、といった二つのパラレル・ストーリーがベースになっています。硬い映画をイメージしていたのでちょっと意外でした。音楽映画としては定番のストーリーなのですが、フェリーニの『アマルコルド』のような土着的なライト・コメディの要素もあるし、文脈の作り方が欧米スタイルの娯楽映画とは少し違っているので、不思議な面白さがあります。ロバート・アルトマンの群像劇のように様々な人物が登場するのですが、その人間関係が社会的にも人種的にも多少複雑で、ある程度台湾の状況を解っていないとこの不可思議な世界はちょっと楽しめないかも知れません。

日本占領期時代の本省人と蒋介石国民党時代にやってきた外省人の違い、或は本省人でも元々の先住民あり、福建人や客家人といった漢民族もいますし、外省人といっても殆どが漢民族ですので、そう簡単に色分けできるほど単純でもありません。劇中、何があっても商売に繋げる客家人が出てくるのですが、さすが華僑の本家は違うなと笑えます。

言葉にしても台湾語、中国語(北京語)、日本語が混在しているし、相手によって使い分けているので、それぞれの文化的背景や社会的なバックグラウンドの違いが見えたり、それに先進国共通の悩みとして家族の崩壊や、地方都市の過疎化という問題もありますし、中国からの軍事的な圧力がありながらも経済的にはしっかり組み込まれていたりする状況もあります。

そういった台湾の人種的、社会的な問題がドラマのアイコンとして組み込まれていて、所々立ち止まって整理しないと理解できない所もあるのですが、それが一見定番の音楽ドラマに見えるような内容ながらもプロットに深みを持たせています。それにこのドラマの舞台は恒春という場所なのですね。沖縄の船が漂着して虐殺され、日本が出兵した牡丹社事件(台湾出兵)の舞台になったところなのです。つまり、こういうサインを巧妙に舞台装置の中に入れているんです。こういった複雑な人間関係の中で素人バンドを立ち上げる訳ですから、うまくまとまる訳はないのですが、まとめ役の日本人マネージャー友子がこれまたショートテンパーで感情的、怒り出すと止まらないし、とんでもなく嫌な女なのです。“やらなきゃいけないことはやるの!”と言い出しっぺの割には、途中で切れて日本に帰ろうとするんですが、“あなたが約束したことでしょ”と台湾女性に言われて翻意します。

こういったキャラクターは台湾人にとって日本を象徴しているような感じなんでしょうか。実は台湾では「日本」と言うと、誉め言葉になっているんですね。「日本的だね」と言うと、約束を守る、とか、義理堅い、という意味で使われるらしいです。ですがこの友子は決して「日本的」ではありません。しかし彼女の存在がこのバンドにとっては良い触媒になっていて、何故か不思議な連帯感でまとまってゆくのです。この過程が非常に面白いのです。なんでもかでも日本人が良いって扱いにもなってないし、描き方が全く背伸びをしていない、等身大の人間として描かれているのです。ちょっと照れくさくなるような不思議な映画です。それに、コンサートのシンボルとして招聘される日本人アーティストを中孝介が演じているのですが、これがなかなか味があって結構効いています。

この映画、台湾では『タイタニック』に次ぐ興行成績だったらしいですが、最初は余り人が入らなかったそうです。口コミで大ヒットになったらしいのですが、恐らく、台湾の問題がモザイクのように散りばめられていて、ちょっとしたきっかけで壊れそうな関係もあるけれども、それでもしっかり台湾としての連体をみんなで作り上げていこう、というカタルシスに共感したんだろうと思います。

この映画はある意味つっこみ所も満載なんで、こういったドラマをバカにするのは簡単です。でも映画って表現技術だけじゃないですからね。それよりもっと深い思想や哲学が重要なんです。

そう言えば台湾は東日本大震災の時の援助も凄まじいものがありましたね。自分の中では多少台湾という国が解っているつもりだったんですが、そう簡単に理解出来るほど単純なもんじゃない、というのがこの映画を見て良く解りました。なんか時間に余裕が出来たら台湾に遊びに行きたいなあ、とほんのり思いました。日本への義援金のお返しも少しは出来るかも知れませんしね。