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ミツバチのささやきの小のレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.0
世界の名作を上映する企画「the アートシアター」の第1弾上映作品。スペインの名匠ビクトル・エリセ監督が1973年に発表した長編監督第1作。名作と呼ばれる作品は、芸術性が高いことが多く、大体寝落ちするけど、本作も例外ではなかった。

しかし、いつまでも「寝落ちしたから…」みたいなエクスキューズ付きの感想駄文を書くのはどうかと…。自分は進化するサルでありたいと一念発起し、ググって調べて、『スペイン映画史』という本をちょこっと読んで武装した後、2回目の鑑賞にチャレンジ。

1939年から1975年まで続いたフランコ独裁政権下の1973年、厳しい検閲を受けたであろう中で発表した作品。「むかしむかし」から始まるおとぎ話の体裁を取り、6歳の幼女アナが妖精を探し求める映画と言っても説明ができるようになっているけれど、その内容は深い。

「スペイン内戦」が終結した翌1940年頃のカスティーリャ地方が舞台。アナが、幼いが故に十分理解できていない死の概念に近づいていく様子と、内戦で敗れた「共和国派」夫婦が葛藤し、再生に向かう姿をリンクさせ、メタファーいっぱいに描く。

生と死の物語『フランケンシュタイン』の巡回上映を観たアナと姉のイザベル。アナはフランケンシュタインが少女を殺し、村人に殺された理由をイザベルに執拗に聞く。

面倒臭くなったイザベルは、フランケンシュタインは死んでいない、精霊だからと、そして村はずれにある廃墟の一軒家に住んでいると嘘をつく。イザベルの言葉を信じたアナがフランケンシュタインの姿をした精霊を探しにそこへ何度か訪れると、ある日、負傷した兵士が…。

アナは、イザベルの悪戯に翻弄されたり、父親のことを誤解したりしながら、精霊を探し求めているうちに死の概念について、理解していっているように思える。

アナが目がぱっちりとした超かわいい幼女であることもあって、この映画はアナの物語としてだけでも楽しめるけれど、監督が伝えたいことは「スペイン内戦」で傷つき、引き裂かれた大人たちが、立ち上がり、歩み出していく姿にあるのではないか、と。

「スペイン内戦」は第二共和政権下で、右派のナショナリスト派が軍事クーデターを起こし左派の共和国派と争った内戦で、1936年から2年8カ月続いた。共和国派をソビエト連邦が、ナショナリスト派をドイツ、イタリアが支持・支援し、内戦終結後ナショナリスト派のフランコ独裁政権が成立した。

共和国派は反宗教的で、共産主義体制、ナショナリスト派は古来のカトリック・キリスト教、全体主義体制を支持した。政治的、宗教的立場の違いから、家族、近所、友人が敵味方に別れて争った。敗北した共和国派はナショナリスト派から迫害を受けた。

内戦後のアナの両親の気持ちは、共和国派だった父が現状を受け入れる努力をしている一方、母は過去に囚われ、父から気持ちが離れているように描かれる。

ただし、父が共和国派であることを知ることは、スペインの歴史に詳しいか、ググるかしないとまず不可能。メタファーも多いから、母はともかく、父の心情を読み解くのはなかなか難しい思うけれど、そこがウケる人にはウケるのかもしれない。

そんな2人だったが、精霊を追い求めるアナの大胆な行動によって、母は過去に囚われている場合ではないと気づき、気持ちを切り替える。アナが死の概念に近づいたのと同じくして、母は「死の不可逆性」のように、過去は決して生き返らないことを納得し、父に寄り添い、前に進もうと決意する。

幼児が大人へと少し変化していくことと、過去の歴史的悲劇から立ち直っていくことをあわせて、とても上手く描いたことが、この難解な映画を名作たらしめる理由かしら。なお映像の芸術性ということも理由かもしれないけれど、自分にはその点の鑑賞眼が不足していて、語る言葉がないので…。

同じく「the アートシアター」で上映しているビクトル・エリセ監督の『エル・スール』も鑑賞したけれど、これも寝落ちしたため、2回目に向け待機中。ただ、こちらは発表したのが独裁体制後だったこともあり、共和国派の苦悩が本作よりもわかりやすく描かれている気がする。
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