抱擁や接吻を描くばかりが恋愛ではない。そんなものを直接画面に出さなくとも、男女の心の機微を表現することができる。
この作品はそのことを最も素晴らしい形で表現した物語だと言えよう。原作はカズオ・イシグロの同名小説。
執事のスティーブンスは職業人としての分際を守るあまりに、主人を諫めることができなかったばかりか、自身に想いを寄せてくれた女性を受け入れることもできなかった。そのことが「日の名残り」という苦いタイトルに集約されている。
「こじらせたおじさんの話」と言ってしまえば身も蓋もないが、彼のように生き方が下手くそな男性は世の中に一定数いるはずである。