むぅ

狼たちの午後のむぅのレビュー・感想・評価

狼たちの午後(1975年製作の映画)
3.9
先週、当て逃げされた。蝉に。

そっちからぶつかってきたくせに大騒ぎして、更に壁にぶつかってから飛んでいった被害者然とした彼とアル・パチーノ演じる犯人がちょっと重なる。
こっちだって、まぁまぁの恐怖を味わった。文句の一つも言いたいところだが、彼は六日目の蝉なのかもしれないと思いセンチメンタルな気持ちにもなる。
そして小学生の頃は蝉を素手で掴めていた事を思い出し、我がことながらゾッとすると共に、立場や状況が変わると感覚や出来る事も変わるものだなんて改めて思ったりした。


1972年ブルックリン
実際に起こった銀行強盗事件、犯人をアル・パチーノとジョン・カザールの『ゴッドファーザー』兄弟コンビが演じる。
その計画の杜撰さや不運なトラブルゆえに、彼らの犯行は暗礁に乗り上げ猛暑の中銀行に立てこもる事になる。


どうしてそこにいるの!
そう言いたくなる、夏の終わりのマンションの廊下。
我が家のドアの前にいる蝉に遭遇した際と類似の恐怖。刺激したら大暴れされる事は百も承知。外で遭遇する分にはコソコソと逃亡してくれるゴキブリより、向かってくる蝉の方がタチが悪い、と思っている。

そんな蝉くん達の立てこもり事件。
銀行に寄った際に遭遇してしまったら「どうして!」と思わずにはいられない。

あっと言う間に警察や報道陣、野次馬に囲まれてしまい、そのやりとりから蝉くんの犯行動機や性格の一端やパーソナルな部分が露わになっていく。
そしてそれは銀行に閉じ込められた人質たちとの間でも起こる。

そんなに悪い奴でもないのではないか...という空気が人質たちの中に漂った時に、TVから犯人がゲイである事が流れる。
そこから女性の人質の緊張が更に緩和される描写が皮肉でもあり、見事でもあった。私も女性なので、どうしてもそこは身の危険を一つ回避と感じてしまうだろう。
偏見だとしても。


『ゴッドファーザー』でも印象的たったアル・パチーノの"目"が今作でもまた強い印象を与える。
狂気や憂い、孤独を帯びた瞳に、つい犯人なのに寄り添ってしまいそうになる。
5つも目があるくせに当て逃げしてきた蝉と一緒にして何かごめん、と思いながら汗だくのアル・パチーノを観た。

涼しい部屋にいるのに、こちらまで汗をかきそうになる熱演。
そしてラストシーンに唸った。
むぅ

むぅ