シズヲ

狼たちの午後のシズヲのレビュー・感想・評価

狼たちの午後(1975年製作の映画)
4.3
「真夏の午後」というなんてことのない原題のように、作中で描かれる銀行強盗事件はまるで日常の延長線上のような雰囲気を帯びている。映画としての抑揚の無さがとにかく顕著で、余りにもナチュラルな演出とアドリブを多用しているらしい演技も含めて異様な臨場感を持っている。このへんを楽しめるか退屈と思うかで評価はだいぶ分かれそう。

役者の演技が凄まじく、アル・パチーノとジョン・カザール演じる銀行強盗グループの余裕の無さがとことん印象に残る。下調べも逃走経路も無いという無計画ぶりに始まり、常に切羽詰まった表情で声を荒らげる姿は滑稽にすら感じてしまう(人質のはずの銀行員達も途中から犯人に慣れ始めているのが哀愁ただよう)。特にアル・パチーノの必死さは素晴らしい。「アッティカ!アッティカ!」は場の空気も相俟って勿論強烈ながら、ラストのやるせない沈黙にもグッと来る。

役者の熱演や素朴な演出と同様に本作の臨場感を際立たせているのは、当時の世情らしきものを自然に映し出していること。強盗犯をスターのように囃し立てる野次馬、もはやショー同然に中継される事件、同性愛者への眼差しなど、異常性にも似た大衆の動きがリアリティーを伴って炙り出されているのが印象的。この映画は実話を元にしているとのことだけど、まさしく「1970年代初頭のニューヨークで発生した強盗事件」をそのまま切り取ったようなリアリズム的物語なんだよな。
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