ハル

時計じかけのオレンジのハルのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
3.8
この映画にインスパイアされたアメリカ人の青年が、大統領候補の暗殺を企てたとして逮捕された。彼の書いた手記が後に出版されて、それを読んだポール・シュレイダーという脚本家が映画「タクシードライバー」の構想に着手した。そして、数年後、同作品にインスパイアされたジョン・ヒンクリーという男がレーガン大統領暗殺未遂事件を引き起こしたことは、記憶に新しいところである。

こうした諸々の事実があることから、この「時計じかけのオレンジ」という作品は、暴力を肯定した映画として批判されることが多い。しかし、キューブリックの狙いは本当に暴力を肯定することにあったのだろうか。

本質は違うだろう。

この映画の主人公・アレックスは、欲望の赴くままに暴力やセックスに興じている。我々が持っている良識やモラルを通して見ると、こいつはどうしようもないクズということになるが、暴力や性衝動が社会にとって有害であるか否かという問題はさておき、そういうものを含んだ個人の自由な意志が全体主義の管理社会の中で奪われてしまうという点に、私は恐怖を感じると同時に強烈な皮肉を読み取った。

この作品の醍醐味は、管理社会の抑圧と個人の自由意志が対立する点にある。そういうものを俯瞰的に眺めて笑い飛ばすというのが、この作品に対する正しい鑑賞態度なのではないだろうか。少なくとも、老人を虐待したり、御婦人を輪姦したりすることを、肯定してもいなければ推奨してもいない。
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