①50年代ハリウッドが奏でる芸術性豊かなオムニバスの名品。1章と2章を『非情の町』のゴットフリード・ラインハルト、3章をヴィンセント・ミネリが監督している。第1章「嫉妬深い恋人」は、ジェームズ・メイソンが舞台監督、彼の指導のもとでバレエを踊るバレリーナをモイラ・シアラーが演じる。豪華客船上で、メイソンが乗客の青年に初演で幕を下ろした新作バレエについて聞かれ、当時を回想する。この回想シーンの序盤で誰もいなくなった舞台上で幻想的なピアノを背景曲にモイラが静かに踊る場面が素晴らしい。紫のドレスを身にまとい、ピアノに合わせて優雅でファンタジックなバレエを見せる。舞台通路からメイソンが思わず声をかけ、2人は師匠と弟子という関係から愛しあう仲に変わっていく。二人を結びつけるのは芸術への共感であり、メイソンは自分の指示通り踊る主役より、未完成ではあるものの何かが違うモイラに魅了される。そして彼女を通じ、自作の欠けている部分を改善してゆく。しかし、心臓の弱い彼女は医者にレッスンを禁じられており、その踊りは文字通り死のダンスとなってゆく。尺の短いオムニバスだからこそ、凝縮され、芸術の域に達するメロドラマだ。(逆に2時間以上この主題で続けられたら見ていられない)モイラ・シアラーは『赤い靴』の主役を務めたダンサー。ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂想曲」が印象的に使われる。この曲といえばジョン・バリーの『ある日どこかで』。つくづく映画との相性が良い曲だと思う。禁じられたダンスを踊り、生きている歓びを感じ、束の間の幸福感に満たされるヒロインの姿は胸を打つ。②回想から我に返った船上のメイソンの姿から次のエピソードへと橋渡しされる。第2章「マドモワゼル」レスリー・キャロンは家庭教師で、トミーという少年にフランス語を教えていた。このトミーがませた子供でキャロンを困らせる。勉強のきらいなトミーは家を抜け出し、魔女だと言われているペニコット婦人に会いに行く。そこで勉強しないで済む大人にしてほしいと頼むわけである。教えてもらった魔法により、トミーは青年となる。このシークエンスが面白く、観客から見たトミーは子供のままだが、劇中で鏡を見ると、鏡の中のトミーは青年になっているのだ!こうして役者が変わり(青年役はファーリー・グレンジャー、ちょっとロバート・ダウニー・Jr似)、夜の街へ飛び出す。(昼間にバーテンから子供の来るところじゃないと言われ、そのバーテンのところへ行って飲めない酒を注文するという伏線回収がある)そして公園に行くと美しいレスリー・キャロンが一人佇んでいるのである。ロマンティック・ラブ・ストーリーといった感じの佳作で、少年の初恋を非常に変わった形で描いているのが興味深い。ヴィンセント・ミネリによるものだが、少年が青年になっていきなり人生について語り出すのはリアリティを追求する輩には、そのロマンチシズムは理解できないだろう。午前0時までに、大人になった少年はベッドに戻らなければならない約束というのは「シンデレラ」のアイデアを拝借したのだろう。③第3章「均衡」カーク・ダグラスは自分が助けた自殺未遂の美しい女ピア・アンジェリのことが気にかかるようになる。何度も病院に見舞いに行く。自殺の理由を尋ねるが自分の人生は終わった、でも生きているとしか言わない。退院を明日に控えた日も見舞いに訪れ、取りとめのない話をする。そこでピア・アンジェリの故郷でのスキー・ジャンプの話になる。「ジャンプで大切なのは均衡(バランス)とタイミングと恐れないことだ」とピア・アンジェリが話す。カーク・ダグラスは自分の名前と住所をメモした紙を渡し、彼女がたずねてくるのを信じて待つ。彼のアパルトマンでの食事会で周囲と人間と話す言葉の中に、ダグラスが過去に何かがあったことをほのめかす台詞が聞かれる。やがてピア・アンジェリが尋ねてくる。ダグラスはついにピア・アンジェリに対して本題を投げかける。自分は数年前まで空中ブランコの曲芸師だったこと、だが危険な技に挑戦し、パートナーを事故で失っていたことを告白する。そこでスキー・ジャンプの経験者であるピア・アンジェリにパートナーになる話を持ちかけ、生きる目標を与えようとするのである。以前のパートナーはバーを離す手が一瞬遅れた、それは彼女がダグラスに恋をしていたからだと言う。この世界に恋は禁物で集中さえすれば成功するとダグラスは言う。この時点でピア・アンジェリも恋をするわけがないと思っている。命を救ってくれた恩人の恩返しにと彼女は承諾する。そして二人は特訓を始める。カーク・ダグラスが見事な曲芸を見せるのが素晴らしい。ジーナ・ロロブリジータとバート・ランカスターの『空中ぶらんこ』と見比べてみると面白い。カーク・ダグラスはスポーツ万能で馴らした青年時代を過ごした。その身のこなしのすべてがサマになっていて、映画の興奮がある。練習場面はスリリングで、しかもダグラスとアンジェリの美しく鍛えられた肉体が興を添える。サーカスは映画になるのである。順調に訓練を重ねてゆく二人。その間にピア・アンジェリが自殺を図った背景が語られる。ここで観客はようやく事態の重さを知る。そしてある日彼女の部屋に死に別れた夫の知人が尋ねてくる。やはりこのカーク・ダグラスが主演した第3章が最もドラマティックである。過去の自分を許せない男と女が出会い、命を懸けて人生をやり直そうとする。その舞台装置としての空中ぶらんこ。二人は過去を乗り越えて新しい自分に生まれ変われるか?スリリングで、一時の目も離せない見事な短編だ。