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ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督が地元ピッツパーグを舞台に監督した、細菌感染パニックホラーの古典。
因みに、2010年のブレック・アイズナー監督作の『クレイジーズ』は、本作のリメイクです。

軍が研究開発した細菌兵器が、輸送機の墜落事故で田舎町の水源に撒き散らされ、細菌汚染された水を飲んだ地元民が発狂。
その恐怖を描くホラー映画……といえば、よくあるゾンビ映画の系譜ですが、本作は違います。

本作が言いたいのは、要するに〈偉そうな連中=政府は信用ならない〉です。

本作では、情報の分断が引き起こすパニックと、なす術なき下の者が辿る末路の無念が描かれます。それを象徴するのが、全身を覆う白装束の防護服&ガスマスクに身を包んだ米軍兵士達と、逃げ惑う主人公たちです。

町民がなんと言おうと聞く耳持たず、「上からの指示」に従い頑として非寛容な軍人は、町民を守ってくれる存在ではありません(本来は国家=国民を守るための存在なのに!)。
しかし、実は彼らも、自分達が何の任務をしているのか、知らないのです。
徹底的な通信管制で簡単な無線のやり取りすらままならない。結果、情報伝達・共有のシステムが崩壊し、関係者全員が、自分達の置かれた状況を正確に理解していない有様に置かれ、現場は大混乱状態。
こんなんじゃ、町民も、軍人も、研究者も、政治家も、まともな判断なんて不可能。各々が混乱、各々がパニック。


しかしながら、白装束の軍人達の行動は、殊更に稚拙で露悪的に描かれるのがポイント。
例えば、殺した発狂者の死体から金品を奪ったり、ライフルで水鳥を撃ったりと、こいつら本当に真っ当な軍人なのか?と疑問を抱かざるを得ません。
ついでに言えば、軍人の癖にやたらと弱く、統制が取れてない(上記情報統制が原因でもあるので、一概に責められませんが)うえに、慢心気味で高圧的な態度……と、挙げ出したらきりがありません。
事ほど左様に、嫌らしく悪し様に描写される軍人たちには、当然偏ったイメージを植え付けられます。
加えて、軍人達を指揮する政府側の人間(現場にいない連中)の危機対応が、人命軽視・隠蔽体質・責任回避の三拍子揃っている点も、本作で生じた問題の根本的原因であり、軍人たちを通して描かれ、植え付けられたイメージを補完します。
「偉そうな連中は悪だ」というイメージを……。


状況がわからず混乱の極地にある主人公達は、いわば我々庶民の代弁者。
常に見えない力(頭の良い連中が定めた決め事)に人生を振り回され慌てふためき、最後には貧乏くじを引く。そんな彼らの悔しさ、悲しさ、怒りは、必死の逃走劇の結末に集約します。その結末の虚しさったら……心が沈むなぁ。

無機質である種超然とした存在に見える白装束軍人どもは、ガスマスクのため表情すらわからないため、冷酷で淡々として見えます。
淡々と仕事をし、淡々と発狂者(と思われる者)を殺し、淡々と死体を焼き……。
そうか、ともすれば政府は、俺たち庶民を、容易く切り捨てるんだ。
圧倒的不信感。政治への真っ向からの批判。
こうならないように、我々はしっかりと、政治に声を上げていく必要があるんだなと、改めて認識させられました。
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