平野レミゼラブル

JAWS/ジョーズの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

JAWS/ジョーズ(1975年製作の映画)
4.9
【敢えてサメ映画としてでなく、オッサン達の青春冒険モノとして語る。】
もう9月も終わりで夏というより秋ですし、海開きも終わってそうな感じですが、今日も暑かったしギリギリサメ映画感想書いても許されるやろってことでスティーブン・スピルバーグ御大の大傑作たる『ジョーズ』ですよ!!
公開当時からもう興行成績が爆発的に伸びまくっており、全てのサメ映画ないしアニマル・パニック映画の原点と言ってしまっても過言ではないレジェンド・オブ・レジェンド。サメ映画界隈からは「原点にして頂点」「サメ映画の絶対王者」「サメ映画に不可能なことはない。ジョーズを超えること以外は」とまで言わしめる記念碑的作品であり、実際その通りだと言い切れる普遍的な面白さに溢れています。

『ジョーズ』を撮った時のスピルバーグは若干28歳。ブルースと呼ばれる3体のサメマシーンが投入され、万全の準備を整えた上で撮影が始まるものの、実際に動かすそれは腐食や浸水によって幾度となくトラブルを起こしまともに動くことの方が少なかったとか。それに加えて慣れぬ海上での撮影もあって機材トラブル、オーバーワーク、スタッフ間の確執、予算と撮影期間の超過といった諸問題が次々と発生。
スピルバーグをして「悪夢」と言わしめた現場のgdgdっぷりですが、それでもサメが動かないなら映さなければいいというサスペンス演出を駆使して対応。長引く撮影時間に合わせて脚本を練り直していくことで、より物語の内容も洗練させていく…といった具合に、機知を以て作品自体の出来を良くする方向に進めていったことに脱帽です。

実際、冒頭から流れるサメ主観映像や、多量に仕込まれるミスリードやほのめかしの数々、「ジョーズ出た!」「違った…」「またイタズラか…」「いや待て…アレは…」「本当に来た!!」といった具合に緩急入り混じった緊迫感、そしてジョン・ウィリアムズの手掛ける有名すぎるスリリングなテーマ曲……これらの優れたサスペンス描写は、どれも上記のトラブルがなければ欠けていたかもしれない演出であり、こうした数々の偶然とスピルバーグの溢れる才気による必然の併せ技が、奇跡とも言える『ジョーズ』の魅力に繋がっているのだと思います。

ただ、これまで書いてきた『ジョーズ』の魅力ってのは、一部分に過ぎません。それに、僕が今更「サメの出番は意外に少ないのにしっかり恐いなんて凄い!!」とか抜かしても、既に先人達に散々擦られまくりの指摘されまくり、手垢ベッタベタの褒めでしかないんですよ!!
なので、僕はここからは敢えてサメ以外の『ジョーズ』の魅力を語っていきます。僕個人としてはサメの恐さ以上にですね、主人公のマーティン・ブロディ警察署長の可愛さに触れていきたいんだよ!!

もうね、最初に『ジョーズ』観た時にビックリしたのは「皆なんでサメのことばっかり語っていて、この世紀のアイドルキャラたるブロディ署長のことを話題にも出さないんだ!?」ってことでしたからね!!
それだけブロディ署長は魅力的だし、格好良いし、そして何より可愛い!!…ってことで今からブロディ署長のカワイイポイントを語っていきたいと思います!!


署長カワイイポイント①「紐を上手く結べてめっちゃ喜ぶところ」
ブロディ署長は本来海の男ではないんですよ。警察なんで当たり前ですが。
だけどサメ被害がいよいよ酷くなった島の平和を守るために、サメ退治のエキスパートたるクイント船長と海洋学者のマット・フーパーと一緒に海に繰り出すワケです。船恐怖症なのにも関わらず!!
この時点で好感度高いんですが、まあそんな陸の男であるため、海のプロフェッショナルたる2人に囲まれてひたすらに肩身が狭い!それでも何かやることはないかってことで任されるのがジョーズを捕まえて引き上げるための紐を結ぶ作業。漁師結びというコツがいる結び方を教わるのですが、その作業に悪戦苦闘。中々結べずにイライラが募っていく中で、やっとの思いで結べた時の無邪気な笑顔が超可愛い!!
なお、その直後にジョーズがフィッシュしていることに気付いて愕然とするのですが、そのお約束の流れも笑えてますます可愛いです。

署長カワイイポイント②「真顔芸が板についているところ」
上記の紐結べて喜んだ矢先にジョーズフィッシュもそうなんですけど、署長、他2名に先んじてジョーズにエンカウントすることがやたら多い。
彼らが乗る「オルカ号」の中で海の男に囲まれた署長のヒエラルキーは当然最下位のため、上位2名にこき使われてボヤくというのが常態化しているんですが、そのボヤキの最中に自分1人だけがジョーズを目の当たりにして真顔になる光景ってのは完全にギャグ。
特に好きな真顔芸は、血塗れの餌にウエッとなりながらばら撒いて、例によってボヤいてる時に急にジョーズが海面から顔出してビックリしてる時ですね。
大きめの眼鏡に咥え煙草というアクセサリーも、真顔を引き立たせるアクセントになっていて余計にカワイイ。

署長カワイイポイント③「サメキチ2人に振り回されてオロオロするところ」
いざジョーズが出てきたとなると、もう署長はパニックなんですよ!
だからこそ、経験豊富な海の男2人に助けを求めるんだけど、クイントにしろフーパーにしろ重度のサメキチだから目を輝かせながら無茶振りしてくる。
半ば気が触れているようなクイント船長から逃れて、フーパーに助けを求めてもそのフーパーから「サメの大きさと人間の大きさを較べたいから船首に立ってくれ」という無茶振りをされて困惑する署長がカワイイ。へっぴり腰で船首に移動する署長もカワイイ。「やってられるか!俺は帰るぞ!!」って戻ろうとしたらクイント船長とバッタリしてしまいすごすご戻るとこなんかも不憫カワイイ!!
挙句の果てに慣れない船の操縦まで任されて半ばヤケクソになってる姿も微笑ましいです。

署長カワイイポイント④「なんか張り合う」
クイントとフーパーは最初犬猿の仲って感じで折り合いが悪いんですが、ハンターと学者で立場こそ違えど、2人とも経験豊富な海の男って部分は合致するワケです。実際海に出て、2人してジョーズに立ち向かい、署長をパシリにして、酒を交わすことでなんやかんやお互いを認め合うようになる。この流れも非常に王道でグッと来ますね。
そしてそんな夜更けにすっかり酔っ払って気分が良くなった2人が始めるのは互いの武勇伝自慢。これまで多くのサメと接してきた百戦錬磨の2人が自慢するものはって言うと、自然今までサメに襲われて出来た傷痕になります。
「これはイタチザメに噛まれたんだ」
「なんの俺はオナガにやられた」
そして、やいのやいの盛り上がる海の男2人を前に我らが署長はというと、2人に背を向けてこっそり自分のお腹を見てすぐにしまうんですよ!!どうした署長!?もしかして話に加わりたかったのか!?ちょうど傷痕自慢になったから、腹の盲腸手術痕かなんかを偽って見せようとでもしたのか!?それで急に恥ずかしくでもなったんか!?なんだお前!?滅茶苦茶カワイイやんけ!!


まあ、ざっと署長のカワイイところをまとめるとこうなりますかね……
なんというか全体的に署長は心配性の苦労人気質なんで、ジョーズという怪物や、サメキチ2人という狂人どもに終始振り回されて右往左往しているのが常なんで本当に可愛らしいんですよね。船恐怖症なのに船に乗せられるもんだから、演じるロイ・シャイダーの演技も終始おっかなびっくり気味なのが巧くて観ていて楽しい。ダンディ系のお顔なのに、根本にある可愛らしさが思いっきり顔出しているのが最高に和む。

無論、決める時は決める主人公属性も完備しているため、カワイイだけで終わらないのも好感度高いです。
家族を愛し、子煩悩で心配性というキャラ付けもドラマとして上手く機能させています。前半のサスペンスでは我が子がサメに襲われて死ぬのではないかという怯えの表情が緊迫感を増幅させますし、観光誘致のことしか頭にない市長に対して一貫して海上封鎖を訴える対立構造にも説得力をもたらしています。
そして、サメに子供を食われてしまった遺族に責められて心を痛め、我が子とのひとときを経てサメと闘う決意を固める一連の流れは正に主人公って感じの勇姿で最高に格好良い!!
好感度が常に高めだからこそ、最後のジョーズとの一騎討ちに至るまで盛り上がれますし、決着時のカタルシスも映える映える…!!

割とみんな前半のサスペンス部分ばっかり評価して、後半の海洋冒険アドベンチャーを侮りがちな気がするんですが、僕からしたらこの署長を始めとするオッサン3人がワイワイ仲良く一丸となってサメに立ち向かっていく部分こそ本作最大のエンタメ要素だと思っていますからね!!
思うに彼らが離れた陸というのは、あらゆるわずらわしさに雁字搦めにされるしがらみの象徴でしかなかったんじゃないでしょうか。署長にしろ、クイントにしろ、フーパーにしろ、そんな俗世の面倒臭さが詰まった陸地におさらばして、自由の大海原へと航海したからこそ真にはしゃぐことが出来たのではないかと。
こうなると、『ジョーズ』という作品からは、オッサン3人が喪ってしまった無邪気さを取り戻す青春冒険モノとしての側面を見出すことが出来ます。ホラー、スリラー、パニック、サスペンス、人間ドラマ、海洋冒険アドベンチャー、そして青春…これら娯楽の王道すべてを詰め込んで、なおかつそのどれもが濃密となれば、それは最高のエンターテイメントなのです。
それこそが『ジョーズ』をサメ映画界の絶対王者足らしめているシンプルな理由の一つではないのかなと思います。

超絶オススメ!!