晴れない空の降らない雨

死神の谷/死滅の谷の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

死神の谷/死滅の谷(1921年製作の映画)
4.2
フリッツ・ラングの初期作品。本作には『カリガリ博士』のスタッフや監督の伴侶も携わっている。中世アラブ、ヴェネチア、中国を舞台にする3つの挿話において、彼らの質の高い仕事はエキゾチックな雰囲気を充満させて、スペクタクル史劇と悲恋の効果を高めている。こうした徹底した仕事によって、愛のために奔走する乙女という通俗的で感傷的なメロドラマが、歴史的/神話的な舞台という壮大な見かけと結合している。それにより、「運命」というテーマ、実のところ古典古代の残骸でしかない観念が、あたかも形而上学的な威厳や神秘をまとって現れる。

作品を貫く運命という観念や、遠い歴史への依拠、幻想的な風景など、本作の現実逃避的性格は明白だが、現実にはそれら古代・中世なものは近代化によって破壊されている。それを「ドイツ本来の国民性」と信じ、スクリーンに再生しようとする、ひたむきな努力がすでに現実逃避そのものである。その意味で、一般にドイツ表現主義に分類されるこの映画の精神はロマン主義といってよい。(19世紀ドイツロマン主義の滑稽なまでに大仰な絵画作品を思い出そう)

こんなこと書くと酷評にしか見えないが、字幕の書体にまでこだわりを見せる美術的配慮、半透明の死者たちや魔法の馬に絨毯などのトリック撮影の技術など見所たっぷりの傑作であることは間違いない。とフォローしておく。