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妻は告白するのryosukeのレビュー・感想・評価

妻は告白する(1961年製作の映画)
3.8
題材に相応しい窃視的なタテの構図を駆使した画面構成と、丁寧にアクション繋ぎを繰り返すカット割りの映像感覚でどことなく心地良く見られる。増村は安心して鑑賞できるな。
小沢栄太郎がバーで友人と飲むシーンで、厳しい山で二人を虐めてやると語る際、暗い店内で光に照らされた小沢の顔が怪しい印象を残す。彼は何が起こるかどこかで予期していたのではないかとも思ったり。
法廷において女二人が同一に画面に収められる時、画面左、裁判長の方向を向く馬渕晴子と、カメラの方を見つめる若尾文子の目線は合わず、垂直にぶつかる。良い構図だ。馬渕が裁判の後に結婚するつもりだと語る瞬間の若尾の目線と表情...。
判決を待つまでの時間、束の間の楽しい時間となるはずだが、背景にはずっと不穏な音楽が流れている。無表情で観覧車に乗っている二人は、裁きの場へと抗えずに運ばれていくようにしか見えない。
無罪判決が出た瞬間は見せず、あっさり記者の会話で示すのは上品だが、裁きは法廷で訪れる訳ではないからこれで良いのだろう。
ワイン瓶の割れたガラスで川口浩が手から流血すると、前半で見せておいた断崖絶壁で若尾を支える川口の手に流れる血を介して真相が語られるのは上手い。
憔悴して髪を雨に濡らし、怪しい光に照らされて職場に現れる若尾は、遂にファム・ファタールが正体を現したという妖怪感が素敵。しかし、どこまでも実直な表情を見せ続ける川口はそれを跳ね除ける。
二人の女が画面内に収まり、しかし視線が交わらないカットが再登場すると、やはりこれが結末のきっかけとなる。
扉が閉められると画面手前に横たわった若尾がシルエットになり、その上に「終」が出る終幕がお洒落。彼女の悪女っぷり、情念の強さを見せつけられた後なので、ちょっと動き出したりするのではないかと思ってしまった。
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