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ニュー・シネマ・パラダイスのkomoのレビュー・感想・評価

5.0
シチリア島の僻地の村。終戦直後の人々の心の拠り所は、村の教会に併設された映画館『パラダイス座』で輸入映画を観ることだった。厳格な司祭がキスシーンをカットしていることに不満を募らせる村民たちだったが、それでも劇場は彼らの憩いの場に違いなかった。
父親のいない少年サルヴァトーレ(サルヴァトーレ・カシオ)は幼いうちから映画の世界に魅了され、劇場の映写室に潜り込むことが日常茶飯事。
映写技師のアルフレード(フィリップ・ノワレ)はそんなサルヴァトーレ叱りながらも、いつしか家族以上の愛情を抱き、彼に映写技術を仕込むようになってゆく。
そして30年後、ローマへ出て中年となったサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)の元へアルフレードの訃報が届く。映画監督として成功を収めていたサルヴァトーレは、アルフレードとの青春の日々を追想する。


午前十時の映画祭にて。
『映画好きのための映画』と名高い本作を劇場で観ることが叶って幸せです。
3時間のオリジナルverはサルヴァトーレ(通称:トト)の青春期がより深く掘り下げられておりそちらも素晴らしいのですが、アルフレードとのエピソードを楽しむぶんにはこちらのverでも十分な感動が得られます。

イタリアの風光が感じられる映像に、ネオンで彩られたタイトルバック。
EDを知っていると、この鮮やかなOPがより眩しく感じられます。
物語はジャック・ペラン演じる中年サルヴァトーレが少年時代を回想する形で幕を開けます。ベッドの中という限られた空間で、物思いの深い表情を見せてくれるのが素晴らしいです。

少年期のトトを演じるのはサルヴァトーレ・カシオ。ポスターにもなっている、映画を嬉しそうに見つめる笑顔が可愛らしくて最高です。この写真は方々で使われていますし、映画ファンにとって貴重なアイコンですね(*^_^*)
いたずら好きの瞳や、アルフレードを慕う声や、大人たちの中で揉まれて必死に生きる姿に胸打たれます。
やがて盲目になったアルフレードがトトの頬を撫で、そこから青年になったトトの場面に転換してゆく場面で、最初の涙が出ました…(←このあとも容赦なく泣かせられるシーンが多数)。

マルコ・レオナルディ演ずる青年サルヴァトーレもまた難解な役どころです。酸味ある恋愛模様がありながら、それは他の映画とは一線を隠した理屈を孕んでいて、苦い結末を迎えます。オリジナル版ではその裏の真実が明かされますが、いずれも切ないことに変わりなく……。
しかしサルヴァトーレの青春時代の経験は物語の中核でありますが、それ以上に圧倒的なエンディングがサルヴァトーレの人生全体を肯定してくれています。
アルフレードは彼を村から出て行かせた代わりに、永遠の回帰の場所を与えてくれました。

大人が子どもを守るということ。そして逆に、子どもが大人を救済することもできるということ。
好きなことを貫くということ。自分にしかできない仕事を得るということ。たとえ裏方で目立たない仕事であっても、それは人々に拠り所を与えるということ。
誰しもを涙させるストーリーは王道ではあるのですが、決して『ステレオタイプ』ではないのです。
トトもアルフレードもトトの母親も村民たちも、決して『当たり前』ではないことを成し遂げていました。
人と人の情だけでなく、個人の誇りをも讃えあげた物語と映像に文句なしの☆5です!
エンニオ・モリコーネの哀しくも心温まる音楽にも感謝。
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