タケオ

ありふれた事件のタケオのレビュー・感想・評価

ありふれた事件(1992年製作の映画)
4.0
強盗殺人を生業とする殺人鬼ベンと、彼を題材としたドキュメンタリー作品を制作しようとする撮影クルー。ベンの常軌を逸した言動に巻き込まれるうちに、クルーからモラルが消失していく•••。

モキュメンタリー形式で進行、生々しく鮮烈な殺人描写とブノワ•ポールヴルード演じるベンの強烈なキャラクターは、クエンティン•タランティーノやブライアン•デ•パルマといった大物監督たちを魅力し、今なおカルト的人気を誇っている。

本作の魅力はなんといってもベンというキャラクターだ。

良心など微塵のかけらもなし。
老人だろうが女だろうが気の向くままに皆殺しにする生粋のサイコパスだが、一度心を開いた相手には満面の笑みと柔軟な態度を忘れない。

カメラに向かって自らの行為に対するルールやモットー、どうでもいいウンチクから無駄に多彩な才能を饒舌に披露する彼の言葉は非常に巧みで、哲学者のようであり、コメディアンのようであり、詩人のようでありとうまく形容することのできない魅力に満ちている。

凶行を繰り返すベンと、彼と関わるうちに犯罪の肩簿を担ぎレイプにまで手を染めていく撮影クルーの姿から、犯罪とメディアが絶妙な関係を築いてしまっている現実に恐怖を覚えていく。

そして衝撃のラスト30秒、鑑賞者は見事に彼らの”共犯”として作品に引きずり込まれていることに気づかされる!

犯罪を生業とする殺人鬼、それを面白おかしく発信するメディア、興味の眼差しで享受する視聴者。

全てが表裏一体である事実を知りながらも、私は怖いもの見たさに今日もまた映画鑑賞を続けていく。

全くありふれていない本作が”ありふれた事件”となるのも、どうやら時間の問題らしい•••。
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