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WINDS OF GOD ウィンズ・オブ・ゴッドのNMのレビュー・感想・評価

3.5
今井が書いた戯曲がもとで、各賞受賞、各国で上演ののち、小説化、ドラマ化、映画化となった。

売れない漫才師で軽薄な性格の男・誠が、相方で弟分の金太とともに交通事故に遭い、なぜか平成から戦時中にタイムスリップ、特攻隊基地で眼を覚ます。
隊員たちには、死んだと思われていた特攻隊員二人だと勘違いされ、逃げるに逃げられない状態に。

しかし、仲間だと思い込んでいる若い特攻隊員らと過ごすうち、二人は命について深く考えるようになっていく。

特攻が成功した報告を受けると、みなで万歳をする。
聖書の所有が見つかった隊員は上官から厳しい処遇を迫られる。
広島、長崎が焼け野原になった知らせが入る。
これから死にに行く隊員たちの気持ちも様々に揺らぐ。
冷徹にみえる上官も実は部下たちの出陣に耐え難い思いを抱えていた。
一方相方の金太は隊員たちの考えに感化されてしまい、更に初めての恋人もできる。

二人は生きて平成の時代に戻れるのか……?

若い今井の演技が良い。
良い意味で若さを爆発させていて、いつも話し声が大きくふざけてヘラヘラしているが、うざったくない芝居。無学ゆえ度々的外れなことを言い、深刻な映画の中に常にユーモアをもたらす。しかしその態度は徐々に変わっていく。

タイムスリップというのはありきたりな設定なのだが、戦争がテーマのとき現代人が当時に行くというのはとても効果的な手法だと思う。観客も感情移入しやすい。

誠は、こんな死に方はおかしいと訴えるが、それは彼らにとってそれは逆に迷惑でしかない。本心では矛盾に気付いていても、他に選択肢がないのだ。では背中を押してやるのが正解か。

誠の行動は、これまでになかった考え方を隊にもたらし、消えることのない絆を生んでいく。
そんな仲間が死んでいくと、自分だけが生きているわけにいかない、と考える過程がよく分かる。

次々と若者が出陣していく様子はやはり悲しい。
誠が悲しさをごまかすために漫才のネタを読経のように叫ぶと、そのネタの内容が、冒頭とは違い深い意味を持って身に染みてくる。

度々、恨むならこの時代を恨め、というような台詞がある。他にやり場がないのだろう。
では平成の時代が本当に平和なのかというと、そう単純ではないことも仄めかしている。

クリスチャンの隊員が仏教的教義である輪廻転生を信じているのが不思議ではあるが、過酷な環境ならではの特殊な考え方かもしれないと思った。教義通り理屈通りの考えではなかなか生きて行けない時代なのだろう。

ラストは凄い展開になってしまい、冒頭の軽い雰囲気とは対極的。エンディングテーマが効いている。

海外でも公演されるぐらいなので、特攻というものをよく理解できないという人にこそ最適。
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