マサキシンペイ

21グラムのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

21グラム(2003年製作の映画)
4.8
数年前に見て、今作からイニャリトゥのファンになった。

群像劇であることに加え、「伏線の回収」とはまた違う、時間軸を交錯させる独特の複雑な構成で、展開の追いにくさこそ多少生じるが、脈略のないシーンの切り替えが見入らせる緊張感を作っている。

ストーリーはとにかく救いがなく辛く悲しい。
心臓移植によって死の間際から生還した人間の喜びの背後には必ず、かけがえのない家族を失った人間の悲しみがあり、場合によってはその喪失のきっかけを作ってしまう人間の苦しみもある、という俯瞰の描写。
愛する夫と子供を一度に事故で亡くした寄る辺のない心の痛みと、その夫の心臓で生き残ってしまったという事実を知った間接的な罪悪感は容易に共感できるが、敬虔なクリスチャンでありながら親子連れを轢き殺してしまいニヒリズムに陥るというジャック(ベニチオ・デル・トロ)の宗教的な苦悩も、何故彼が教会と聖書に縋らなければ生きられないのかが丁寧に描かれていて、神に絶望してもなお、教会でむせび泣きながら懺悔の姿勢をとってしまうシーンには心を揺さぶられる。

この生と死のドラマを中心に、生きたい・生きられない・生き返った・生かされてしまう・生きて欲しい・生き返って欲しい、死にたい・殺されたい・殺したい・殺して欲しい・殺さなければならない、産みたい・産まれてくる、と言った生死にまつわる多様な感情が、雑味なく非常に豊かに演出されている。
人間は死ぬときに「21g」だけ軽くなるらしいが、まさに命の重さを直視する映画だ。
マサキシンペイ

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