あなぐらむ

花のあすか組!のあなぐらむのレビュー・感想・評価

花のあすか組!(1988年製作の映画)
4.0
こちらも東宝系列での公開となった崔洋一作品。同じ原作でも漫画原作を崔洋一自身が脚色した事で、一風変わったガールズアクション作品に仕上がった。『ぼくらの七日間戦争』との二本立て興行は、やはりアイドル映画の体裁である。
崔はこの世界を、治安が悪化した近未来のニュー・カブキタウンの物語としてとらえ直す事で、大戦後の日本の風景を幻視させる。ニュー・カブキタウンは冒頭いきなり娼婦たちが手招きし、「お鼻の薬・赤い玉」が売られる「闇市」のような空間として設定されており、そこで何が行われるかというと、言ってしまえば東映やくざ映画の再現である。崔の見せたいのはこの(「帝都大戦」で作ったオープンセットを使った)それら「焼け跡の若者」たちの勢力争いの「状況」であり、同時にそこに風穴を開けるように、常に叫び、走り回るつみきみほ演じる「あすか」でもって、混沌を利用しようとする者を撃ち抜く純真な魂の姿をこそ直線的に炙り出そうとする。意図的に大人はキャストされず、若者だけが画面を跋扈する様は、崔の前二作の純正・角川ハードボイルドとは遠く離れている。
彼は他者の脚本から離れた所で、仮想の戦後「沖縄」をも見ていただろう。
今回も撮影として伴走する浜田毅が、ソリッドでぐっと締まった画でもって、実際にはウェットな物語にガワを付けている。

実際の所この物語の核となるのは武田久美子と菊池陽子の関係であり、つみきみほはその目撃者でしかない。これは「友よ、静かに暝れ」において、藤竜也扮する主人公が行った事と同じである。死の立会人である。沖縄を、そして祖国韓国を遠く臨み、ニュー・カブキタウンという戯画化された戦後の(或いは青春の)終わりを、崔洋一は描く。
北方原作の二作でも志向されていた「沖縄」が本作では「新宿=日本(のダークサイド)」として描きだされ、結果として次作「Aサインデイズ」は沖縄に乗り込んでの作品となった。この地味な、誠に地味な作品群の先に、みながよく知るシネカノン時代の崔洋一の時間が来る。

ストーンズの「サティスファクション」がテーマソングに選ばれ、それはイコール崔洋一の青春に向けての挽歌であり、強く欲求・要求する若者(の魂を持つ者)へのエールとなる。

自分は武田久美子目当てで観に行ったのだが(ちゃんと両方観た)、つみきみほの勢いは素晴らしくそれがこの後「櫻の園」を生んだんかと感慨深い。加藤善博さんが嫌な大人役を好演、松田洋治、美加里といった時代を彩る顔が並ぶ。地味でどうにもならん映画だが、非常に愛すべき作品である。

因みに公開時にテレビ放映していたドラマ版「花のあすか組!」(東映製作なのに小高恵美主演)は、この映画版とパラレルの設定になっており、つみきみほがゲスト出演している。