horahuki

ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたりのhorahukiのレビュー・感想・評価

3.8
ご冥福をお祈りいたします。

初スチュアートゴードン。先日鬼籍に入られたということで代表作を今更ながら。グッチャグチャなスプラッター映画っていうイメージだったのだけど、想像以上にちゃんとした反権威主義的な内容で驚き。もちろんとんでもなくカオスなんだけど、主義主張を乗っけたシナリオが恐ろしく真っ当で、ファンタスティックとの計算されたバランス感覚が凄い。

原作の『死体蘇生者ハーバート・ウエスト』で描かれた各モチーフを基本的にはそのまま受け継いでいて、一人称視点での回想で語られるラヴクラフトらしい怪奇小説を上手く現代劇として蘇らせ、なおかつ「怪奇で上品」な原作をあるところはゴッソリと削ぎ落とし、あるところは面白おかしく誇張することで「アホで下品」なスプラッターコメディに仕立て上げたセンスが素晴らしい。

唯物論を発展させ、人間なんて手なり足なり胴なりそれぞれの部分がそれぞれに自己完結した機械に過ぎないのだというウエストの主張が、蘇生実験を続けていくうちに裏打ちされていくという、人間の尊厳を徹底的に貶めることで生まれる原作の恐怖は本作では控えめ。とは言いつつも、基本的には唯物論に立った上で、真逆のことを朧げに匂わすあたりにゴードン監督の優しさなり死生観なりが滲み出てるような気がした。

ネコとの格闘シーンでの躍動するカメラ、交互に訪れる光と闇、家具や小物の動きで存在感を伝え撹乱させるアトラクション的な小気味良い演出。若者が反権威の名の下に集い、抑え込むあるいは飲み込もうとする権威に対して反抗するという尖った内容を包み隠すかのように、主義主張を匂わすシーンでは必ずと言っていいほどユーモアがセット提供され、全てが笑いに転化される。

「諦めも肝心」だというプロローグがそのまま活きてくるラストの落としどころも綺麗。愚かと考えるかそれもまた魅力と考えるか。恐らくウエストとは真逆な考えをゴードン監督が持っているだろうことが匂わされた本作では、人の弱さも包み込んだ、「だって人間だもの」的優しさであるのだろうし、そういったところも好きだった。

『サイコ』のオープニング曲にそっくりな曲が何度も使われてるのだけど、アレ流すだけで観客の先入観的に簡単にスリルを演出できてしまうという超お手軽なインスタントヒッチコックには笑った。メロディラインがそっくりというより本当そのまんまで、これ怒られなかったのか気になる…🤣更にはエレベーターを浴室に見立てて、これまた『サイコ』のシャワー室の曲にそっくりなのを流すという徹底したパクリ精神には感服!
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