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レスラーのBeSiのレビュー・感想・評価

レスラー(2008年製作の映画)
4.9
12日に誕生日を迎えられたダーレンさん。誕生日おめでとうございます!!🥳🎉🎂引き続き投稿していきます〜。

ダーレン・アロノフスキー監督作品にして、ヴェネツィア映画祭において最高賞となる金獅子賞を受賞した「レスラー」以下レビュー。

以前は人気を博したものの今や落ち目のレスラーが、心臓発作で倒れ、再びリングに上がれば命はないと宣告される。家族との関係もこじれ孤独に苛まれる中、彼はある決意をする......。


✔繊細な映像表現
ダーレンの洗練された手腕によって描かれる映像表現は、本作においては1990年代とは打って変わったものの、観る人を強く引きつけている点は全く変わりません。ドキュメンタリー風のカメラワークでリアリティを出し、観客を映画に落とし込む彼の手法には陶酔しました。ダーレンの作る映画で使われるショットってめちゃくちゃ説得力ありません?本当に凄いと思う。リングに入る前と職場に入る前のランディから漂う雰囲気が段違いであることを感じさせるバックショットが一番好きです。プロレスラーの方々、リングに上がる前は結構綿密に話し合いしてるんだね。あの仲睦まじい雰囲気結構好きかも。

✔残された居場所
かつては絶大な人気を博していたレスラー、ランディ。しかし、十数年経てばプロレスを続けようとする身体も悲鳴を上げ始め、危うく生死の境を彷徨いそうになることもある。しかし、老いに関係無く未だに自分のことを愛してくれているファンたちの期待を裏切らないために、万全な準備をしてリングに臨まなければならない。それゆえ、筋トレに打ち込む回数より身体にステロイドを打ち込む回数が増える。

そして、重い腰を上げてプロレスを続ける中で思うのは、娘ステファニーとの確執。ランディには特筆して悪いところなんて無いのに。彼は我が子と思いやりを持って接したいと考えているのに。我が子を愛しているのに。プロレス以外のこと全てが思うようにいかない。じゃあ、自分に残された居場所はリングの上だけ。自由になれる場所も最期を過ごす場所も一緒。どうしようもない無力感の連続に胸が張り裂けそうになります。ラスト数分のスピーチとパフォーマンスが完全なる男泣かせ。これが熱くて悲しくて仕方がない。

リングの上で自分を自由に表現するランディと、繰り返す整形手術への批判の声を浴びながらもありのままの自分で居たい意志を貫くミッキー。この共通点について考えると、尚更ランディないしミッキーに感情移入してしまいます。"自分には○○しか無い" "自分を表現できるものは○○しか無い" っていうのは別に依存でも諦めでもなくて、その人が為せる最大限の努力であり、信条だと思います。自分の生き方を貫くんだと明確には言ってはいないものの、ミッキー本人が意志を示しているのは確かですし、それを批判をするのも野暮かと考えるわけです。昔のミッキー・ロークもめちゃくちゃカッコ良くて好きだし、今のミッキー・ロークもより一層渋く仕上がってて好き。だから彼の好きなようにさせてあげて......🥲

✔堂々たる復活
1980年代、セックスシンボルとして一世を風靡したミッキー・ローク。しかし、先述した通り、20年が経過した後の彼の姿に驚きと落胆を隠せない多くの映画ファンがいたのも事実です。整形を繰り返した顔に昔の甘いルックスの面影は無くなり、私生活においては警察沙汰のトラブルもあったミッキー。しかし、本作「レスラー」で、彼はありのままの自分を世界に見せつけることになりました。ランディの放つ一言一言に重みと力強さを持たせ、哀愁を漂わせる男を演じたミッキーの演技は本当に素晴らしかったです。オスカー像を獲得しなかったのが不思議なほど。当初、製作会社はニコラス・ケイジのような大物を主演に起用することを条件に予算の大幅な増加を監督のダーレンに持ちかけたのですがが、彼は自分が選んだミッキーを主演に据えることを主張して譲りませんでした。その結果、600万ドルという低予算で製作された本作は映画界に多くの絶賛の嵐を巻き起こしたんですから、本当に凄いこと(語彙力)よね。



映画作りに対する信念が込められたダーレン・アロノフスキーの渾身の作品のひとつ。不器用な男の泥臭く悲哀に満ちた生き様を鮮明に描いた素晴らしい傑作。プロレスファンは必見の一本です。
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