朱音

白夜行-白い闇の中を歩く-の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

白夜行-白い闇の中を歩く-(2009年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

東野圭吾氏の有名な著作だが、この『白夜行』は一本の映画にするにはあまりに不向きだ。
760ページという長編に加え、14年の歳月を往き来する複雑な構成、"犯罪"で結ばれている男女主人公の衝撃的な関係と結末。
これを2時間ちょっとの映画に纏めるのは、容易いことではない。
2006年に山田孝之、綾瀬はるか主演でテレビドラマ化されているが、原作ではほとんど描かれていなかった亮司と雪穂の関係を映像化し、2人の葛藤や成長などの心理的部分を中心に描いている。1クール11話と、充分な時間を使える分、長編原作の映像化という点ではこちらの方が、遥かに真っ当な企画である。

2011年には日本でも映画化されているが、私は未見だ。ただ結果は火を見るより明らかだろう。
本作も想像に違わず"ダイジェスト"映画になってしまっている。
小説から重要なシーンだけを抜き出し纏めたもの。
ダイジェスト版から何か伝わるものがあるだろうか。『白夜行』という小説が、どんな小説なのか垣間見えるだけである。


事件のあらましを描いた、物語の前半部分が特に酷く、いま現在から遡って、14年の歳月を往き来する短いシーンとシーンが入り交じり、決して少なくはないキャラクターたちが登場する、その複雑な物語を、とてもじゃないが追いきれない、把握しきれないスピードで展開してゆく。観客はほぼ例外なく置いてけぼりを食うことだろう。原作を読み、ドラマ版を全話視聴していたはずの私ですら、いま、いつなのか、何が起きているのか、ほとんど分からなかった。分からないまま目の前を通り過ぎて行った。これが物語と言えるだろうか。

とはいえ、本作にはパク・シヌ監督の独自のカラーも見受けられる。本作において個人的には東野圭吾氏の物語よりも、そちらの方に興味を惹かれた。
この監督は美的なもの、に徹底してこだわるタイプだ。ベッドシーンの撮り方ひとつにもそうした趣向が伝わってくる。
シヌ監督の独自の世界観を堪能するのに本作は不向きだ。どうしても物語性が先行してしまうから。

結果的には失敗だったかもしれないが、センスのある監督だと思う。ただ、”心理描写”がイマイチで、”生きてるドラマ”を作る監督ではない。視覚的に訴えるタイプの作劇だ。

チャイコフスキーの「白鳥の湖」が流れると共に、一方では殺人事件が、もう一方では、情事が。この交差編集のアイディアは見事。強烈で斬新で、衝撃的だ。

主人公ミホとヨハン、白と黒、光と影、という対照的な2人の関係のコントラストが視覚的に表現され、クラシカルな映像と音楽で切なさを醸し出す。
映像と音楽が織り成す耽美的な世界に酔いしれることが出来たなら、本作の評価はもっと違ったものになっていただろう。

またコ・ス演じるヨハンの"影"の演技、佇まいが更にシヌ監督のカラーを色濃くしている。切なくも、耽美な”影の世界”を作り上げたのは、コ・スの力が大きい。
朱音

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