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眠狂四郎 勝負の小のレビュー・感想・評価

眠狂四郎 勝負(1964年製作の映画)
4.0
角川シネマ新宿の「大映男優祭」にて鑑賞。子供の頃、確か日本酒だったかのテレビCMで「佐々木小次郎はつばめ返し、眠狂四郎は円月殺法」というナレーションを流しつつ、アニメのキャラクターがその剣技を繰り出す映像を見て、引っ掛かっていた。

それからおよそ40年。眠狂四郎の円月殺法を実写で初めて観た。ニヒルで冷酷な二枚目剣豪、眠狂四郎が下段に構えた刀を反時計回りに円を描くと、催眠術にでもかかったかのように間合いに飛び込んでくる敵を一刀のもとに斬り捨てるという必殺の剣なのだけれど、さすがにもうワクワクはしない。

その代りこの眠狂四郎、ツッコミどころの多そうなナイスなキャラクターかもと思いつつちょっと調べたら、他の作品では女性の着物の帯を刀で斬るとかもっと面白そうなことやってるみたい。今回の特集上映では、眠狂四郎シリーズはこれ1作しか観なかったけれど、失敗したわー。

女性にモテまくり、子供やお年寄りにも慕われるけれど、情を交わすことを避けるニヒルな一匹狼。ただ、シリーズ2作目の本作はキャラクターとしての脂の乗りはイマイチなのかな。

それはさておき「男優祭」という点からすると、本作はこの特集上映で何度か観た市川雷蔵のことを考えざるを得ない。二枚目役者として人気絶頂だったにもかかわらず、がんにより37歳で早世。今なお女性を中心にファンが多い模様な彼はまるでジェームス・ディーンみたい。経歴を知ると眠狂四郎と円月殺法って、雷蔵のためにあったかのよう。

雷蔵の母は妊娠中に父の親族のいじめにあい、父に助けを求めるも無視され、実家に戻り1人で育てようとしたが、父の義兄で歌舞伎役者の三代目九團次が生後6カ月の雷蔵を養子にし、本名を改名した。雷蔵自身は16歳の時にそのことを知り、30歳を過ぎてから実母と対面を果たした。

15歳で歌舞伎の初舞台を踏む。しかし、その資質を高く評価されながらも、養父の九團次が京都市会議員の子で門弟あがり役者だったことから権門が幅を利かせる梨園では日の目を見る望みは乏しかった。

そこで演出家の武智鉄二が子がなかった三代目市川壽海との養子縁組をまとめあげ、姓名判断に凝っていた雷蔵は、本名を自ら決めた名前に改名した。なお雷蔵は周囲に改名を勧め、妻も雷蔵の勧めで改名したという。

養子となり市川雷蔵の名跡を継いだ後も、若いうちから大役を与えないという壽海の方針もあって良い扱いをされなかった。この不満から、映画俳優に転身した。

2度の養子縁組と改名に加え、梨園での不遇。「何をやっても勝新太郎なイメージ」的な大スターが多い中で、おごらず、たかぶらず、礼儀正しく、その境遇にあわせてきたかのように、メークで普段の姿がガラリと変わり、役に応じた演じ分けを上手くこなす。

しかし、その内面はコンプレックスを抱え、不安定なアイデンティティーを落ち着かせるためニヒルに構える。そうした苦悩がにじみ出したかのような演技は、観る者の無意識に伝わるのかもしれない。

剣の腕は誰にも負けないけれど、どこか虚無感の漂う眠狂四郎は雷蔵そのものであるかのよう。足腰が弱く、立ち回りの時にふらつく癖があった雷蔵にとって、自分から動かなくても相手が飛び込んでくる円月殺法は、まさに彼のための必殺技。眠狂四郎が雷蔵のハマリ役というのはもっともすぎる。

ということで、雷蔵を超える眠狂四郎はいない気がする。もともと本特集上映では三隅研次監督の演出に注意して観るつもりだったけれど、経験不足もあって良くわからず…。しかし市川雷蔵、イイじゃないですか。ちょっと「雷(らい)さま」仲間に入りたくなってきたかも。

●物語(50%×3.5):1.75
・眠狂四郎が高姫に放つ台詞がサイコー。結構ナルシストなんですかね。

●演技、演出(30%×5.0):1.50
・眠狂四郎は市川雷蔵をおいてほかはいないのではないかと。円月殺法の緊張感も良いです。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・カッコイイです。
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