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いつかギラギラする日のMOCOのレビュー・感想・評価

いつかギラギラする日(1992年製作の映画)
4.0
「誰も私を見ていなかった、ただ黙って通り過ぎて行くだけ」(麻衣)
「見てほしかったのか?」(角町)
「どうだか、ただ、なんとなくつまんなかっただけ」

 1990年、25才の女優荻野目慶子さんの自宅で、43才の新進映画監督の河合義隆さんが首を吊っているのをロケ帰りの荻野目慶子さんが発見したニュースは衝撃的に伝わってきました。
 1979年、舞台「奇跡の人」で ヘレン・ケラーを演じ注目されていた清楚で清純派、若手No.1の荻野目慶子さんが妻子ある男と5年続けていた不倫関係の精算を持ちかけた結果でした。
 と、いうことは荻野目慶子さんは20才の頃にはそういった関係にあったということです。

 イメージ失墜の荻野目慶子さんは五社英雄監督に手を差し伸べられ「陽炎」で復帰した後、深作欣二監督の強い勧めで出演した『いつかギラギラする日』のハイテンションのヒロイン役で再び脚光を浴びました。それは従来の清楚な荻野目慶子さんの役柄とは真逆の汚れた狂気な役柄、ショットガンやマシンガンを撃ちまくり挙げ句大胆なヌードも披露しました。

 荻野目慶子さんはこの映画をきっかけにした深作欣二監督との不倫が発覚すると魔性の女などと報道されました。

 荻野目慶子さんが二人の監督に魅力的だったのでしょうけれど、深作欣二という監督もまた未知の魅力を引き出す力を持った監督だったのかもしれません。


 神崎(萩原健一)は北海道の柴(千葉真一)から連絡を受け井村(石橋蓮司)と柴のマンションを訪れます。マンションには柴の若い愛人麻衣(荻野目慶子)がおり、麻衣の仲介で函館のライブハウスのオーナー、角町(木村一八)の計画した現金輸送車を襲撃します。
 観光シーズンの洞爺湖のリゾートホテルの週末の売上金2億円を奪う計画は計画通り運ぶのですが、実際の売上金は5,000万円程しかなく、5,000万円を借金返済とライブハウスの資金のあてにしていた角町は井村を射殺し、柴・神埼にも発砲、神埼はアジトから逃げ出したものの柴は銃弾に倒れてしまいます。
 角町は計画を知っている麻衣の抹殺を図るのですが麻衣に5,000万円を奪われてしまいます。
 角町に5,000万円を貸している室蘭のヤクザ(八名信夫)はニュースで知った襲撃事件は角町の仕業と気がつき金の横取りを子分に命じます。
 元々恋仲だった角町と麻衣はよりを戻し角町・麻衣の乗る赤いカマロと神埼のテラノ、ヤクザのベンツと黒塗りのクラウンによる5,000万円争奪のカーチエイスが始まり、銃撃戦を追う無数のパトカーが・・・。

 TV「傷だらけの天使」以来の深作欣二監督と萩原健一氏の作品は従来の日本のヤクザ映画とは違うギャング映画となり、壊した車126台のカーアクションはアメリカの映画にひけをとらない出来上がりです。良いと思っていた2011年の「ワイルド7」のバイクアクションもこの映画を観直してみると足元にも及ばないほどです。パトカーに囲まれたテラノの抵抗は見もの、ワイヤーアクションで吊り上げられたテラノがパトカーを乗り越えて行くシーンは大迫力です。

 室蘭のヤクザを演じる八名信夫氏は一昔前「マズイもう一杯」と、青汁のCMをしていた方です。
 八名信夫氏は大部屋俳優よりもひどい境遇から俳優業をスタートし、ギャングや悪党を専門に演じる俳優集団『悪役商会』を立ち上げ会長となり、やがて一流俳優と同じ一人部屋を与えられるようになった苦労人です。
 一人部屋を与えてもらうようになった初めての日、撮影から旅館に帰ると部屋の扉の前に『八名(やな)様』と自分の名前が書いてあり、喜んで扉を開けると客室係が『八名(はちめい)様』と勘違いして8名分の布団が敷いてあったという、なんとも悲しいエピソードを対談番組で笑いながら語られていました。
 対談番組などで見かける八名氏は役柄とは全く違った優しい方で、最近は人柄の良いおじいちゃん役が似合うようになってきた素敵な方です。

「誰も私を見ていなかった、ただ黙って通り過ぎて行くだけ」・・・角町に喋る真顔の麻衣は十代から芸能界に身を投じた少女の心の声のように聞こえました。「魔性の女」なんてとんでもない、20才の彼女はきっと頼りなさげで、はかなげで、守ってあげたくなるような女性だったのでしょうね。
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