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ニキータのNeCoのネタバレレビュー・内容・結末

ニキータ(1990年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

殺人を犯した女が世間体では死んだことにされ、政府の秘密工作員として暗躍する話
今作に同業として登場するヴィクトルは、かの有名な『レオン』の主人公の原型である
フランス映画は退屈というレッテルが貼られがちだが、そんな勿体無い偏見は捨て置き、レオンのルーツを覗き見る興味本位でも良いので見てみれば良い
いつの間にやら彼女の虜になるはず

初手の強盗に入るシーンでは飄々として生意気な印象を感じさせる主人公ニキータ
警官の動揺と哀しみの色を移す目を見つめながら尚、引き金を引くという根っからの狂おしさに面食らう

工作員としての教育を受けるシーンでは、銃の腕は躊躇いなさ故にピカイチなの主人公っぽくて良い
教育する人間たちは気苦労が絶えないだろうが、がなり声で下品な歌を唄う、格闘技においてもスポーツマンシップの欠片も感じさせない振る舞いなど、ニヒルな爽快感がある
重要視されるのが一般的な品性を持ち合わせることなのだが、「本物の人間、そして女に変身するために」「わからないときは微笑んで、知的には見えないけど好感を与える」という言葉が印象的だった
結局掃除人のような完璧な仕事を求められる人々は、処世術を極めた者なんだろうな

彼女を見込んで教育を申し立てたボブにも、散々な態度故に愛想尽かされるように思いきや、誕生日を祝われるという不器用な愛を知るきっかけをもらう
4年後には変わり果てたように勉強に勤しみ、美しく着飾った姿を見せる
化粧気のないニキータが徐々に女の武器を理解して強く生きようとする変化が素敵

何度目かの誕生日に勾留以来初、外に出る機会がやってくる
レストランにてプレゼントを大事そうに抱えるニキータは年相応で可愛いけれど、中身は銃だし話す内容は任務だしで、結局愛情と思っていたものは存在しなかったのだと、彼女は打ちのめされる
ドレスで着飾ってヒールを鳴らして銃を構える姿は強く美しいけど、愛を知ったばかり儚いニキータには鬼畜すぎる裏切りだろう
銃を持ちながら座り込む風貌も、赤い血と黒のドレスのコントラストも非常に良い
作戦における逃亡ルートは虚偽で彼女の実力を試すものであったが、自らゴミ溜めのような生き方をしていた以前とは異なり、気品を身につけた彼女が逃亡のためにゴミ溜めに飛び込むのは皮肉めいてて切ない描写だな
これにより無事彼女は工作員として卒業するのだが、愛情に似た不器用なもの享受したボブにも、彼なりの葛藤があって「お別れのキス」が意味あるものであったこと、とても切なかった

独立後、久々の買い物にワクワクを隠さない彼女の一風変わった魅力にレジの男は目を奪われる
「食事しない?」とニキータの誘いで、彼は家に上がり、段ボールに蝋燭乗せて食事を共にする
不器用な会話繰り広げるこの気まずさ然り、堪らない
食欲が満ちれば性欲を満たす、実にわかりやすくて良い
この男、マルコとは長く続く恋人関係になるわけだが、ニキータは女として生きることの楽しさを知り、平穏に身を置くことを願うという当初とは真逆な望みを抱きながら看護師を偽り任務に励む
初任務後にボブからの電話があり、その際ニキータは食事に招く
「愛だけでいいの」
本気故に相手の過去を知りたい男と隠さねばならぬ過去を持っている女
ボブの機転の効いた嘘にも本当に愛おしそうに微笑む婚約者
珍しいほどに一途に純愛な男が出てきたなと思ったら案の定報われないのが寂しい

いつだって彼女の順風満帆な日々を邪魔するかのようなタイミングでかかってくる任務の電話
悲しくも逆らえず身に刻んだ技術は如何なる状況でも発揮される
手放しな少女のような無邪気さからは想像できないほどの悲しく切ない業を背負っている彼女が放つアンニュイな魅力にも着目したい

締め括りとなる任務では、官僚になりすまし機密情報を探るのだが、この作戦においてニキータとヴィクトルの対比が露骨になるのも見どころ
淡々と任務遂行を図るヴィクトルに対し、仕事の重圧に心労を抱え、感情的なニキータ

事の顛末、素性を知っても愛してくれる恋人に対し、「私が出会ったたった一つの愛」と言葉を送り彼女は涙を流す
夜明けに窓辺にてジャケットを羽織り、恋人の眠るさまを見つめ、煙草を咥える
逃亡という決断が彼女の中で固まった瞬間

「お互いに寂しくなるな」
ラストの台詞には、彼なりに彼女に対する愛を持っていたが、立場上体現することを許されなかったボブと、彼女を思うが故に離れるという苦渋の決断をしたマルコの互いに相容れぬ感情の交錯がうまく織り交ぜられていた
言ってしまえばマルコにとってボブは、ニキータと離れるに至った原因を持っている側だし、ニキータが残した手紙を読ませなかったのがせめてもの抵抗だったのだろう
ここまで鑑賞して、両者の気持ちのルーツもその育みも痛いほど理解させられているため、一概に片方を否定できないのが辛かった

中盤だらけてしまう部分もあったが、ラストは非常に繊細な心理描写にて締め括られ、ニキータの姿が映らないのも想像を駆り立てる要素となった

関係性がかなり濃密だったため、自分の中で折り合いが定まらず、駄文になってしまったが、備忘録として残しておこうと思う
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