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ダンサー・イン・ザ・ダークのNeCoのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

この物語の主人公であるセルマは、ミュージカルには辛いことがないからと、生活が貧困している自身とのギャップから夢を託すように憧れていて、ハンディキャップを自覚しながらも快活に生きているというのに、この作品は鬱映画というに相応しい程の哀しき顛末を迎えてしまう

初めは周りを苛立たせるような彼女の行動に嫌悪を覚えていたが、彼女には一人で背負うには重すぎるバックグラウンドがあって、それでもなんとか失明する前に働いて貯蓄をし、遺伝による息子の目を手術するという目的を遂行しようとするという強固な意志に心打たれた
危なっかしい描写が多く、彼女を気にかける周りの思いと彼女自身の生き方がすれ違う場面では心臓を掴まれるような苦しさがあった
目が不自由な彼女にとって音は希望であり、ミュージカルは夢そのもので、どんな状況でも彼女には音さえあれば乗り越えられたのだろう、またはそう思わざるを得なかったか
必死に貯めた手術費用を盗まれ、それを取り返しに向かった際にも感情を露わにせずに悟すような口調であったのが印象的
何故にここまで心優しく自身の境遇に悲観せずに強く生きようとする人間が、貶められるような罠にはまってしまうのか

きっと彼女は目が見えないことで同情を買うような真似はしたくなかったから、人一倍仕事をして稼いだのだろうし、夢を捨てることもなかった
しかし徐々に取捨選択をせねばならぬ極限の状況下で、最後まで子供を愛し続けたのは母親として生き抜いた彼女の生き様を煌々と表していよう

ラストシーンでは、本来のシナリオが息子の手術失敗であったことを受け、ビョークがそれに強く反対したために、手術が成功し彼女はそれを知ることができたというものになったという
絞首台が落ちてセルマの歌声が途絶えても尚、私たちが諦めない限りそれは終わらないという旨の歌詞が綴られ続けること、皮肉なんかでは片付けられない、より大きな絶望と彼女の一生を深く刻みつけるようなラストであった

心理描写が非常に繊細であり、明るく快活なイメージがあるミュージカル映画において、自身を肯定するため、絶望から目を逸らすために哀しくも穏やかに強く踊り唄う様は、ミュージカル映画のイメージを一転させるものであった
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