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犬王のNeCoのネタバレレビュー・内容・結末

犬王(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「見届けようぜ」

これはほぼライブですね
当方女王蜂が好きなので、アヴちゃんが本格的に声を当てると知ってからずっと見たかったのですが、漸く念願叶い劇場にて鑑賞しました

日本の誇るトップクリエイターたちが集結し、アニメーション、音楽全てにおいて拘り抜かれた芸術点の高い作品
艶やかで愛嬌のある作画というより、良い意味で日本人に親しみ深いような和風の力強さ、質素さや繊細さ故の魅力みたいなものを全面的に押し出してくる
初手の連続するカットだけで、どれだけ時間がかけられてるんだと、妥協のない打ち出しに感服した

平家物語には幕府に都合の良い平家の在り方が記されていて、その真偽は謎という、よくある権力による哀しき歴史の改変が露骨に見受けられる
能と言えば世阿弥という我々の一般教養的知識もそれによるもので、相当の興味関心を持ち調べ上げない限り、犬王という存在を知る由もない
この歴史において語られることのない虚しさを犬王が背負う者として誕生し、芸術に昇華させていくというストーリー構成は、彼の奇形が治る度に面白可笑しな劇も終末に近づいていく寂しさと共に訴えかけてくる
彼は確かに存在していて、エンターテイナーの一人として時代を駆け抜けた

盲目の青年と奇形の青年が彼らの夢のため、その命を燃やすがごとく、琵琶を打ち声を上げ、舞を舞う
力強い歌声やパフォーマンス、周囲の目や古典的な型に囚われないファッション、なによりもハンディキャップを個性として戦う力強い姿に劇中何度もほくそ笑んでしまった

鯨はTwitterにて冒頭を聴いていたのですが、本当に良かった、語彙が溶ける
歌唱力の高さは勿論、観客を巻き込むライブスタイル、当時の技術をフル活用し、創意工夫のうえに繰り広げられる多彩なカラクリ、これこそエンターテイメントだ!と思わされる圧巻のアイデアとパフォーマンス力にただただ魅入ってしまった

終末も個人的には好き
かなり原作というかベースとするものが限られている中で想像を膨らまし、恐らく切なくもこうであったのだろう結末を救いなく淡々と描き出す
しかしながらラストにはアニメーション的ならではの要素も盛り込み、劇中を想起させるような二人の純粋な音楽への昂りを持って完結する

この作品に限らずだが、おそらく伝えたかったであろう想いを汲み取り、言語化する術や機会を鑑賞者は持つが、その全ての要素を直接的でなく映画作品に組み込むことができる製作陣には毎度敬服せざるを得ない
犬王はそれをより強かに感じさせる作品であった
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