マンボー

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼けのマンボーのレビュー・感想・評価

4.1
インターネットサイトで評価を見たら、シリーズ中で一番の評価を取っていて、ついBSで鑑賞。

映画の喜劇は難しいと思う。劇場の演劇としての喜劇は、大げさな方が舞台で映えるけれど、映画で大げさな演技、しつこい演出だとどうも白ける、うんざりする。正直にいうと三谷幸喜の映画はこれでもか、これでもかといった感じのオーバーアクションと演出とでどうも苦手。山田洋次の演出も、子どもの頃は分かりやすくて面白かったけれど、ここ十年ほどはどうもしつこく感じるようになってしまった。

本作も演出がややしつこめであることは変わらない。ただ絶妙なのは、やはり脚本、ストーリーテリング。ありがちな展開ながら、すこしひねりをきかせていて、これがとても品がよくてステキな塩梅なのだ。

また、当然ながらキャストの面々も本当にすばらしい。下条アトムの父上演じるおいちゃんに、三崎千恵子さんのおばちゃんの庶民感や善良さ、タコ社長から滲む人の良さと繊細さ、妹さくらの爽やかさ等も他の役者には代えがたい魅力。存在感のかたまりのようなたたずまいの寅さんや宇野重吉演じる画家、太地喜和子演じる芸者の酸いも甘いも経験しながらも裏表なく感情豊かなキャラクターもほんの少し役者の演技慣れした違和感がありながらも、愛嬌と健気さとがあいまった魅力にあふれていて、微妙な違和感をいつしか覆いつくし、終盤には気にもならなくなって、何ともすばらしい。

よい演者に、甘いか苦いかどちらかの分かりやすいストーリーかと思いきや、絶妙に甘さを控えて、わずかな苦みを残した佳い塩梅。なるほどこれは最高の余韻が味わえる、庶民派喜劇に、映画にぴったりの哀歓を振りかけて、どうにも忘れがたい逸品でした。