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ぐるりのこと。のRのレビュー・感想・評価

ぐるりのこと。(2008年製作の映画)
4.4
2回目見てびっくりしたのが、大昔に一度見ただけなのに、かなり内容を覚えてたこと。ほとんど忘れてるかなと思ってたけど。それだけ印象に残ってたってことなのかな。橋口亮輔監督が、まったくゲイ的なものに触れることなく、一般的(?)な夫婦の10年間の生活を淡々と描いた一作。小さな本の出版社で働いてる妻の翔子を木村多江が演じ、最近法廷画家の仕事を始めた夫のカナオをリリーフランキー。夫の不安定な収入とゆるーい性格ゆえに、結婚式せぬまま夫婦生活をしてるふたり。しっかり者の翔子の頑張りで、ようやくできた愛おしい子どもに起こった不遇以来、翔子の中はやりきれない思いがたまりにたまって、とうとううつ病になってしまった。カナオは、社会を震撼させたセンセーショナルな凶悪事件の法廷にて被告人の様子を淡々と絵に描いてくんやけど、その場では、被告人のみならず、被害者の遺族のいたたまれない姿も目にしなければならない。被告人にしろ、遺族にしろ、みんなやりきれない思いを募らせてピークの状態になっている。家庭でも、職場でも、みんな割り切れない思いに苦しんでる。しかし、カナオは、気を病むことなく、常に安定感を持ち、ただ流すでも、執われるでもなく、静かにそれらを受け止めながら寄り添っている。人の心の中は分からんのよ、誰にもね。と語るカナオ。そんなカナオのスタンスに、どれだけそばにいても好きな人と通じ合ってるのか分からない、と気持ちを爆発させる翔子。僕個人としては、彼らの気持ち、分からないでもないけど、かなり違う感覚で生きてるため、何とも言えない気持ちがずっとしてた。僕は、人の気持ちって、一緒にいる限り、かなりの部分こちらの心の在り方次第だと思ってるので、好きな人とホントに心が通じ合ってればそれはよくよく分かることだ、と思う。だからふたりの様子を見ると、ホント大変だなぁ、と。人を信じることが難しい時代ではあるが、信じる力を持てるかどうかは自分にかかってる。けど、みんながみんなそう思ってるわけじゃないし、思えるわけでもない。やっぱり、簡単には割り切れない。ってのが世界のひとつの実相なんだろう。で、本作のもうひとつの大きなテーマは、エネルギーの問題だと思う。自分の人生に、あまりにも不条理なことが起きてしまうと、膨大な悲しみのエネルギーが放たれる先のないまま自分のなかに溜まり込む。それは、やがて内部破裂して、自分を破壊してしまう。そのエネルギーをどうすればよいのか。その答えだって、出ることもあれば、出ないこともある。てか、ほとんどは答えが出ないままだし、出しようがない。出るか出ないか、運でしかない。様々な条件がたまたまうまく重なった人だけが悲しみのスパイラルから抜け出せる。それでも、やっぱり、その答えが出せるか出せないかは自分にかかってる、とボクは考えたいし、そうだという確信もある。その立場からしても、本作はとても興味深かった。ただ、本作の魅力は、それらのテーマ以上に、俳優さんたちの演技と存在感にある。主演二人の素晴らしさは言うまでもなく、ちょっとおかしい宗教じみた翔子の母を演じる倍賞美智子、バブル崩壊後仕事が大変な兄を演じる寺島進、その妻を演じるいつ見ても最高におもろい安藤玉恵、深い悲しみを抱えて生きるカナオの職場の先輩柄本明、などなどを中心に、法廷で次々に出てくる豪華チョイ役。法廷シーンのたびにワクワクする。特に印象的なのは片岡礼子。子どもを殺してしまったことを悔やみ、涙と鼻水をぽろぽろと流しながら、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す姿は何とも言えない痛々しさ。あと、最後に有罪判決を受ける男、アレは誰なのだろう、あのあまりに凶悪な演技と、遺族の演技。ほんとシビれた。その様子を淡々とスケッチにおとしていくリリーの飄々とした様子。この人いつもは被告人の方にいるイメージやのにね笑 そのほかもみんな劣らず見応え抜群。そして、人、人、人。みんなそれぞれいろんな事情を抱えて生きてるんやから、カオスのような人生、支え合って生きていくのが一番良くない?っていう。支えがない人には、責めじゃなくて、支えを与えてあげようよ。放っておいたり、それ以上に責めたりしたら、かわいそうだし、もしかしから本当にとんでもない結果に繋がってしまうかもしれない。そんなこんながしっとりと伝わってきた。ちょっとばかし弱っちい気がしなくもないし、ほんとはもっと現実は瞬間瞬間に善悪が入り乱れてるもので、oversimplifyされてる嫌いがなくはないけど、優しさと癒しに満ちた良い作品だと思います。そう考えると、同監督の恋人たちは、さらに深みがレベルアップしてるなーと思いました。次はどんな世界を見せてくれるのだろうか。楽しみな監督のひとりです。
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