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吸血鬼ゴケミドロのbackpackerのレビュー・感想・評価

吸血鬼ゴケミドロ(1968年製作の映画)
3.0
"生き血を吸われた人間が次々にミイラと化す! 残忍!狂暴な吸血鬼・・・次はお前だ!"
"生き血を吸われた人間がたちまちミイラと化す!遂に出た恐怖怪奇映画の決定版!"

松竹印の怪奇空想特撮映画。
特撮を用いた空想科学映画は、業界の雄・東宝や、負けじと挑戦する大映と比べれば、ビッグネームが少ない印象の松竹。
1960年代の松竹特撮としては、『宇宙怪獣ギララ』(67年)、『吸血鬼ゴケミドロ』(68年)、『昆虫大戦争』(68年)、『吸血髑髏船』(68年)が思いつきますが、こうして並べると実に圧が強い面子。
前年の『宇宙怪獣ギララ』がスペースSF色を売りにしたのとは打って変わって、本作最大のアピールポイントは、怪奇色、要はダークな雰囲気であること!
というのも、"宇宙からの侵略者"、"飛行機パニック"、"サバイバル"、"反戦"、"吸血鬼"、"世界の終わり"等のジャンルミックスの上で、最初から最後まで延々とペシミスティックな物語が続くため、それはそれは陰気です。
とはいえ個人的には、そんなに暗くもないという印象を抱きます。特撮描写の作り物感や俳優達の演技から、どこかコミカルで明るい雰囲気が感じられたからかもしれません。恐怖映画なんですけどね。勿論、当時はめちゃくちゃ怖かったんだと思いますし、本作の結末には今見ても十分ゾクッとしましたから、なかなかのもんです。

ただ、ジャンルミックスのし過ぎで、とっ散らかってしまった印象は拭えません。84分の枠内では、語るべき事が多すぎました。
例えば、アメリカ人女性ニール(演:キャシー・ホーラン)の「ベトナム戦争で戦死した夫の遺体を米軍基地から引き取りに来日」という設定。
この設定は、反戦の訴えとして、ベトナム戦の写真のカットインと併せて時折描写されます。これを描く意図は、おそらく「地球人同士で戦争してる場合じゃない!宇宙からの侵略者がやってくるぞ!」=「人類は一致団結して行くべきだ」という主張のとっかかりなんですが、同時に、物語が進む中で、ニールが自分の命を守る為に、政治家の真野(演:北村英三)や科学者の佐賀(演:高橋昌也)等と結託して、自暴自棄な男・松宮(演:山本紀彦)を生贄にするところで、「なーにが反戦だ。結局は人間、我が身可愛さに他人を売るんだ。卑怯で利己的、それが人間なんだもの。これじゃ争いはなくならないよな」と、見事なブーメランをお見舞いしてくるのです。綺麗事は通じない映画だ……と思うものの、ちょっと尺が短いですよね。

あと、短い枠にも関わらず要素詰めまくっておきながら、動きがノロかったり、ちょっとしつこかったりするのも、不満点。
例えば、高英男演じるスナイパー寺岡が、ゴケミドロの円盤型宇宙船にて取り憑かれるシーン。ゆ~っくりした歩みで近寄っていきますが、この繰り返しがくどい。「お、いよいよ船内シーンとか、別の場面にジャンプか?」と思っても、延々と画角の異なる接近シーンが連続し、「はやくしろ!!」と思ってしまいました。
他にも、何回かあるバンク映像の落石シーンや、ゴケミドロが額の傷から侵入する特撮等は、当時の評価は存じませんが、個人的にはかなり冗長に見えます。

壮大な前振り系エンディングは、子どもの頃に浸った藤子・F・不二雄SF短編系の源流といった感じで非情に好みなんですが、いかんせん他の要素で個人的なマイナス印象が目につきすぎて、なんとも評価しにくいところです。
ただ、主人公・杉坂(演:吉田輝雄)の、人間が有する善性・美徳の化身のごとき振る舞いは、振り切っていて好印象です。
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