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ストーカーのMoviePANDAのレビュー・感想・評価

ストーカー(1979年製作の映画)
5.0
『人生という未知なる道へ』

『ノスタルジア』に続き、タルコフスキー監督長編作品2作目の鑑賞。一言で言うなら、個人的にはこっちの方が輪をかけて超面白かったです!尺はこちらの方が約40分も長いにも関わらず、絶対にそこから“引いたりしてはいけない”映画としての強度と精度。揺るぎない信念を持って撮ったであろうカメラワークと構図には思わず唸り、観終わるとまた観たくなる魔力の様な魅力。その素晴らしさは、自分に対し絶対的な自信を持って「今後も何度も観たくなるよな、これ?」と自問自答したくなる程です!

冒頭、画面に記されるある文章。この文章の力がとてつもなく偉大で、これがある事によりこの映画はSFとして成立。このある種暗示の様な情報脳内インプットにより、ただの風景が荒廃したSF世界に見えてくる不思議。そんなこの映画は、言うならば究極の“ごっこ”映画と言えるでしょう。子供の頃そろばん塾が始まるまでの時間、友達と神社の周りの森で遊びました。子供のボクらにとってその森は未開のジャングル!気分はまさに川口浩!ビジュアルで一切SF感を醸し出すことの無いこの作品を楽しめるかどうかは、まさにそこにかかっていると思います。要は、その文面からその世界観を自分の中で描き出せるかどうか。どうやらボクは、どっぷりとその世界にハマってしまったようです。

音楽の無い世界が続く、一見地味な展開。カメラの動きにしても、突然パンする様な事はほとんどなく、じと~っと這う様に動いたりする。なのに何故これほどまでにスリリングに感じるのか?確かに哲学的要素があるから、難解な映画と感じる気持ちも分からなくはないけど、モノクロとカラーの使い分けなんか『ノスタルジア』同様とってもシンプルなものだし、劇中の“詩”の登場は、観る前こそビビってたものの、いざ観てみたら実に自然な流れで台詞と共存してる。あとはもう好みの問題もあるでしょうね。ボクはもう退廃的な雰囲気が大好きなので、その要素だけでも随分とこの映画に魅せられてしまったんだと思います。

この映画が描いているものとは?
観た人それぞれが想いを巡らせ、様々な解釈をするのがまた、映画の楽しみなんだと考えます。そして、ボクはこの映画について、描かれる探索というものが、人生そのものを描いているという風に感じました。この先、自分の人生がどうなるかなんて分からない。過ごした時は過去となる。だからもう戻れないし、用心深い回り道の方が安全だと考える。道中の3人の会話、それはまさに人が生きる事、何故生きていくていくのかについての探求。ただ、この映画の深いところは、それだけでは終わらせないところ。死や欲望など、様々な観点から人間というものを炙り出しているかの様です。

「夢を叶えてやる」と言われたら、人は誰しも我先に!とその方法に興味を持つはずです。では、人が願う“本当”の夢とは何でしょう?この映画を観たらば、そんな事を思い始め、いろいろ考えてしまいました。例えば、億万長者になりたい。でも、それが叶った翌日に死んでしまったら元も子もない。そう考えると、人の究極の夢は「安らかな死」なのではないかなという答えに行き着きました。「さあ、夢を叶えてやる」と言われた時、人は心に何を思い浮かべるでしょうか?


 “道”

 人生なんて夢のような

 嗚呼・・・

 儚い物語


 あなたにとってこの道は

 嗚呼・・・

 どこまで続くでしょう?

 Oh・・・ 


満点はやたら滅多には付けません。
でも、この映画を観終わり心で感じたのは「これ、文句の付けようが無いな」という事でした。個人的にはそう感じたんですよね。ただ、どう考えてもこの映画は万人受けするものではない。ただ、ボクにとっては大好きな作品だった。ただ、それだけの事です_(._.)_


劇中より

「柔軟にしなやかにいこう

    そして無理せず、

  “弱さ”を持って生きていこう」


Song by Southern All Stars “道”
      アルバム『葡萄』より♪
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