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タクシードライバーのbackpackerのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.5
先日本作を友人に紹介したところ好評いただき、自分ごとのように嬉しくなりました。と同時に、自分が長らく見ていなかったと気づき、久しぶりに再鑑賞。
どうしたことか。前回鑑賞時より、心に染み入る。遥かにグッとくる。ちょっとやばいかもしれませんが、すっごく共感しちゃう。ただし、それは彼の孤独故の狂気に対してというより、世間への苛立ちと憎悪の眼差しの方にですが。

それゆえに、クライマックス後の新聞切り抜きから始まる"その後"は、本音を言えばいらない。蛇足。『未来世紀ブラジル』系エンディングの方が後味が良く、一時でも満たされたトラヴィスは認められない。なーにベッツィにイイ顔してんじゃこんバカタレが。
あのシーンが「現実なのか?」と思考すれば話は別です。あくまでも、起こり得たifの未来。トラヴィスの妄想的夢。救われない孤独な男に見せる救いの在る夢。『未来世紀ブラジル』ですね。それなら「まーいっか」と流せます、妄想ダダ漏れなろう小説ばりのエンドでも無問題。

勿論、実際の映画の中においても、トラヴィスが真の意味で自らの孤独と狂気から解脱し、幸福を得たようには当然見えません。
エンドロールにて、夜のNYをタクシーで駆け抜けるトラヴィスの目つきには、怪しい光が消えておらず、バーナード・ハーマン(本作が遺作)の美しいテーマ曲は次第に気味の悪い旋律へと移行していきます。
この先トラヴィスは、再び自らの自尊心を満たすためだけに、誰彼構わず殺しに行くだろうと、想像させてきます。


さて、本作が描く"孤独な男のこじらせ"は、いつの時代も変わらず存在するものです。
自分は、トラヴィス並みに孤独な状況とは思いませんが、世間・一般大衆・社会・格差、それらに不平不満を垂れる野郎ではありますので、トラヴィスの気持ちが昔より遥かにわかるようになりました。
特技も才能も知識も無ければ、ルックスも財力も無い。自尊心も自負心も育たぬまま成長した真面目系クズ。どんよりと、鬱屈としたものが、心に汚い澱となって沈殿し、生きていく。
そんなの嫌だぁ、もっと幸福になりたい、豊かに生きられるはずだ、そうあれかし。
なんて、思ったところで、現実はな〜んにも変わらない。トラヴィスや、本作の元ネタとなったアーサー・ブレマーみたいな、イカれた方向に舵を切る前に、どげんかせんといかんのだが……。


こんなこと書くと、ファッション不幸自慢のエセサブカルクソ野郎(そういう輩もキライですが)と同類視されそうで、そんな状況に陥るのもまっぴらごめん。
一体全体俺はどこにどう向かっていくんだ……。
トラヴィスでもスコセッシ(トラヴィスがガチビビリ状態になる「黒人に女房を寝取られた。この44マグナムを女房の腐れマ○コに突っ込んで殺してやる!!」とエキサイティングしている男が、スコセッシ監督です)でもポール・シュレイダーでもいいから、教えてくれぇ。
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