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みじかくも美しく燃えのsleepyのレビュー・感想・評価

みじかくも美しく燃え(1967年製作の映画)
4.2
てふてふ****

19世紀末、スウェーデン軍のスパーレ中尉(伯爵、妻子持ち)は、旅回りの綱渡りの女性エルヴィラ(英題でもある)と出会い、スウェーデン軍を脱走する。そんな二人の悲劇的なしかしどこか牧歌的な悲恋。本作は最初に結末が明かされ、そこへ向かって静かに静かに進む。結末はわかっているにも関わらず、ラストショットが本作を単なる悲劇から永遠の平安へ昇華させている。またしても映画は筋で観るものとは違うことを痛感させられる。

なんという映像美、カメラ。ときにわずかに揺れ、傾き、たびたび故意にフォーカスをぼやけさせている。この焦点の外し方・送り方が絶妙。悲劇の逃避行のはずだが、北欧の短い夏の自然、草原や森や川が夢見るような画調で捉えられていて、このカメラワークだけでも観る価値がある。

作劇は淡々としていて、現在の聖林や日本映画ではべったべたでやたら泣いたり叫んだりと幼稚園みたいだが本作は違う。まるで毎日がピクニックのよう。しかし本作は小奇麗にのみ描くわけではない。素性を明かせずお金もなくなる。心身も弱る。森でキノコや木の実を喰う姿は野生動物のようでもある。セリフは極端に抑えられ、心情を語ることもない。なのにこの結末へ至る内面はびしびしと伝わってくる。本作が唐突に感じられるとしたら、それは一から十まで全部見せて、聞かせてしまう現代映画に毒されているせいだろう。また、これは映画であり、映画は倫理に従う必要はなく、観客は裁判官ではない。不倫云々はまとはずれであり、本作もまた倫理を持ち込んで因果応報として描いていない。

軟調の画に硬質な語り口。本作に不要なカットはなく、特に二人で草原の蝶たちを追うシーン、森の中の妖精のような綱渡りシーン、夜明けの干潟シーンなどだけでも観る価値がある。そしてあのストップモーション。音楽は既成のクラシック(モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467」とヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」が使用されているとのこと)。音楽もまた今の映画と異なり、心情や悲劇性を強調・誘導しない。監督はベルイマン、トロエルと共にスウェーデンの三大巨匠と呼ばれることもある人。後に「刑事マルティン・ベック」も撮った。日本では圧倒的に本作で知られる。

二人が追い、手から逃れる小さな蝶たちは、永遠に届かなかった幸福か。多くの場面で聞こえる幸福そうな鳥たちの囀りが耳に残り、ラストショットはしばらく忘れられそうにない。

★オリジナルデータ
Elvira Madigan, スウェーデン, 1967, 91min(紀伊國屋DVDは89分、私が観た配信動画は87分だった。PALマスターに起因するのか否かは不明)。カラー(Eastmancolor)、オリジナル・アスペクト比(もちろん劇場上映時比のこと)1.66:1、ネガ、ポジともに35mm、邦盤ディスクは2007年に出たきり(高騰中)。レンタルでおいている店も限られる模様。廉価な再発売が待たれる。

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