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つみきのいえのbackpackerのレビュー・感想・評価

つみきのいえ(2008年製作の映画)
4.0
過ぎ去りし日々の思い出、あるいは長閑な滅びの一幕。
アカデミー賞短編アニメーション賞を日本映画として初めて受賞した、緩やかな空気感が心に沁みる作品。

ーーー【あらすじ】ーーー
海面上昇により水没した街で、一人小さな家に暮らす老人がいた。
家は、昔の住居の上に建て増していく、さながら積み木のような代物。今住む家も沈み始めたため、更に建て増しを始めることに。
ある日、愛用のパイプを誤って海の中に落としたため、潜水服を着込み取りに潜った老人は、土台となっている下の家へと潜り進めるうちに、家族と過ごした記憶を思い出し……。
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「海面上昇で世界が海中に没する」という〈海面上昇×世界の終わり〉設定。終末世界・ポストアポカリプス物の設定の中では、あまり多くない印象です。『マッドマックス2』の「砂漠に改造車とイカれた人間集めれば、誰でも簡単に終末世界を描ける」という大発明と比較して、海というフィールドはハードルが高いからですかね。
実際、『マッドマックス』タイプのポスアポ映画で海が舞台となると、『ウォーター・ワールド』くらいしか思い浮かびません。
2021年公開の『レミニセンス』では、ノワール映画としてこの設定を活用していましたが、正直設定を持て余した感が強めでした。あの世界観で他にも作品を作ってほしいなぁと思ってなりません。

個人的には、〈海面上昇×世界の終わり〉という世界観設定は、"ほのぼの寄り"と相性がいいイメージです。これは、ひとえに『ヨコハマ買い出し紀行』の影響ですが笑

世界が緩やかな滅びに向かう時、それを黙って受け入れるのか、立ち向かっていくのか。宗教・文化・環境・価値観・死生観等……多様な視点が判断軸として影響しますが、ハリウッド風のパワフルアメリカに汚染されている身のため、アメリカは立ち向かうだろうなぁと想像します。要するに、その昔大量に作られていた「狭い地球にゃ未練はないさ〜♪」(by『海底軍艦』)系の、地球を捨てて外に出ちまおうぜ!ってことです。近年はこのタイプに該当する作品をあまり見かけません。せいぜい2014年の『インターステラー』くらいでしょうか。
一方現代日本のイメージ。『ヨコハマ買い出し紀行』的なところにまとまりそうな気がします……よく言えば滅びの美学(侘び寂び!笑)、悪く言えば思考停止。

んでんで、本作はまさに後者の雰囲気が溢れています。ただ、それを悪様に言いたいわけではありません。
あくまでも、孤独な老人が淡々と生活する中で、偶然過去を回想する出来事に身を置いただけ、というところがむしろいいんです。
限られた時間の中で描くべきは何か?という取捨選択を突き詰めた結果、12分という超短編ながら、一人の老人の辿った人生に満ちる家族との愛の時間を丁寧かつ繊細に語ることになった、ということなんですかね。いやー、ほんの短い時間ながら、実にエモーショナル!

長々書き連ねた〈海面上昇×世界の終わり〉なんてものは、放っておけばいいんです。老人の晩年において、大事なことは全て、心の中にあるんですから。
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