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ベルリン・天使の詩のKKMXのレビュー・感想・評価

ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)
4.1
正直面白いとは感じませんでしたが、観応えある作品でした。

本作は1時間半くらいある白黒の長いの前半と、短く華やかな後半の2部構成です。で、この前半がしんどい。
前半はストーリーがあってないようなものなので、なかなかに退屈です。映像はかなり儚く美しいのですが、同じストーリーない系の『アマルコルド』『イレイザーヘッド』に比べるとギャグがないため(後半はある)、かなりキツいです。

そして、本作の最大の特徴は、モノローグが詩であることです。これが曲者で、難しさ(及び退屈さ)に拍車をかけています。
だから、このモノローグがイケるか否かが、本作を愛せるかどうかのキモになるのでは、と感じています。

私はストーリー、映像ともにイケたのですが、このポエムがまったくダメでした。なので前半の1時間半がものすごくキツかった。
そこで、字幕を無視して鑑賞してみたところ、映像が雄弁に語り出しました。詩がノイズになっていて、本作の豊かさに気付けなかったのです。孤独な人や戦争の傷跡に寄り添うことが本作の、というよりも天使たちの眼差しであり、胸がグーっと締め付けられました。とはいえ、字幕が目に入ってしまうため、どうしてもイライラしてしまう。

苦手なポエムが大幅に減少するのがピーター・フォークとの会話からです。ここからついに短い後半がスタート!世界が情緒に彩られ、物語がロールしていきます。空中ブランカーとの恋物語はドラマもクソもないので面白味はないですが、愛の喜びは伝わってきました。


天使と人間。天使は無限の生を生きるが、人とは相互的なコミュニケーションができない。寄り添うことはできるが、伝えることはできない。
一方人間は有限の生であるが、伝え合うことはできる。
どっちがいいかというと、個人的には10:0で人間ですね。ピーター・フォークが「天使をやめて人間になる奴は結構多い」と言ってますが、そりゃそうでしょうよ。天使はあまりにもしんどい。手応えがないから喜びがない。
愛という人間を人間たらしめる情動によって、天使から人間を志向する主人公の姿は、水が高きから低きに流れるがごとく自然でした。寒さや痛みを感じて嬉しそうな表情をする主人公の姿が、なにより最高でしたね!


また、本作の2部構成は、戦後・冷戦と未来の対比を象徴しているようにも感じました。
傷ついた街と人たち、それに寄り添う天使たちが中心に描かれる前半は、戦争と分断の痛みと悲しみを癒していくようなトーンがあるように感じました。
一方で、後半は新しい関係性の構築・統合を目指す、あたたかくポジティヴな色合いがありました。そう考えると、第二次大戦後のベルリン40年を総括するような作品だったのかもしれません。


『つまらないけど面白かった』と感じる作品に、たまに出会います。本作はまさにそんなガーエーでございました。
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