平野レミゼラブル

インビジブルの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

インビジブル(2000年製作の映画)
2.8
【透明でフルチンならヤれることは決まっている。】
H・G・ウェルズの『透明人間』以降作られ続けてきた透明人間モノ。科学者が透明になる薬を使って悪の限りを尽くしていくというSF作品として共通していますが、その科学者の性格ってのは作品ごとに変わっているらしいです。おそらく最初の透明人間の映像化である1933年の映画では普通の科学者が透明になる薬の服用による孤独感から狂気に走る…といった感じの怪物(になってしまった)故の苦悩を押し出していたようですが、本作の科学者・セバスチャンはウェルズの原作同様に最初から傲慢でプライドが高く人間性が終わっている人間として描写されます。そのため透明になったらもう悪行三昧なワケです。

透明人間計画はどうやら軍事利用のため行われているようですが、 実際に透明になって何が出来るのかって考えると意外に用途に困ります。そもそも透明になるのは体だけなため、完璧な透明人間状態でいるなら全裸でないといけないわけで…透明な兵士を作るにしても武器を装備させたら何もかも無意味になるし、そうなると自然に用途は暗殺になりますがそれにしたって基本丸腰状態。
上手く武器を現地調達して隙を見て暗殺するにしても、暗殺する側が全裸の丸腰状態なのが非常にネック。防御力0のため暗殺対象に抵抗されたら何が致命傷になるかわかりませんし、四方八方発砲されたらほぼ詰みます。犬とか持ち出されても簡単にやられそうだし、なんかあらゆる意味で実用に耐えないような……

となると、自然悪事の方向性は決まってきますね!
覗き!
無賃乗車!
無賃映画鑑賞!
スケールが小さい!!

でも、セバスチャンは天才科学者なので(女性の着替えを覗きながら)考えるわけです。そして天才なので、すぐに有効活用方法を考えつくわけです。透明状態はフルチン状態!じゃあそれを活かそう!と。要はレイプですね。もう脅威とかなんかではなく卑劣漢でしかないな……

という感じでいざ透明人間でスリラーを作ろうとしても構造的欠陥は出てしまう感じではあるんですよね…応用が効かない、スケールが小さい、なんか卑怯で卑劣、そもそもコイツ全裸なんだよなって考えると妙にマヌケに思える…等々。
なので本作でも後半は思い切って研究所という狭く限定的な空間を活用したモンスターパニックじみた内容になっていきますが、透明人間の性質を考えると本当に妥当な判断としか言えない……傲慢な上司としての厭~な側面があったセバスチャンが、透明になって以降はただ倒すべき対象であるモンスターにまで落とし込まれて、パーソナルな部分から来る厭さが見えなくなってきたのは皮肉で面白いけど。

まあ、ある意味シンプルなモンスターパニック映画であり、それ以上でも以下でもなくはあるんだけど、透明化にかかるプロセスは非常に面白い。血管から薬剤を注入していくと肌→筋肉→骨と順に消えていく人体模型消失CGは科学的考証は置いといてグロテスク&ユニークだし、だからこその外連味があります。
まあ、それ故にダメージを負った終盤はもう透明人間というより「恐怖!動く人体模型の怪!」でしかなかったんだけど、これも要は見えない怪物から見える怪物にまで落とし込んだということでもあるワケですし、弱体化という意味では妥当な映像表現なのかもしれない。