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甘い生活のRのレビュー・感想・評価

甘い生活(1959年製作の映画)
4.9
久々に見たけど、すさまじい傑作やし、最高にシックかつスタイリッシュやし、見るたびに面白さが増す。はじめて見たときは3時間延々とつながりのないエピソードの連続にしか見えなくて、何とも言いにくい映画やなーと思ってたけど、見れば見るほどひとつひとつのシーンに明確な役割があり、この映画が描こうとしている情感が少しずつ深まっていってるのがよく分かる。それは簡単に言うと、無明、という言葉に集約される気がする。主人公のゴシップ記者は裕福なセレブたちと一緒になって、猥雑で刹那的な快楽を存分に味わいながら生活してて、満足してもいいはずなのに、何をしても空虚で心が満たされることがなく、でもだからこそ常に皮相的な刺激を求めて行動せざるをえない。誰ひとり信用することもなければ、傷つくこともない、けれど、人生の深淵を覗きこむ瞬間が時として訪れる。それは老いであったり、病であったり、死であったり、でも考えてみたところで人間の運命についての答えは見つからない、だから愛や遊びやセックスや虚栄で自分を麻痺させながら毎日騒いで暮らしてる。ナンテコッタ。けど、考えてみると、これはまさに現代を生きる一般人のほぼ全員に当てはまることであって、しかもパンピーは本作の登場人物ほどはっちゃける気力も財力も自由もないからもっと不幸なんだよね。まさに無明ですよ、何も明らかなものがなく、人生の意味がわからない。そんな虚しい人間の生き様を、全編目がはなせないくらいクールでシャープな映像で、とことん魅惑的かつ享楽的に描き出したこの映画は、ケバケバしいジュエリーのような輝きを永遠にギラギラと放ち続けることでしょう。今後も何度も見るよ。あ、あと、最高なのは、男と女ってほんまに分かり合えないよなってのが鮮明に描かれてる点。女はひとりの男を囲ってがんじがらめにしたいんだけど、男は1人の女だけを愛し続けて生きるなんて到底無理な話。この永遠に交わらない感じがマルチェロとエンマの関係によく表れてて面白かった。あと、音楽がとにかく最高。いやーなシーンでずーっと延々同じ和音で流れてるオルガンが特にツボ。フェリーニはどれも好きすぎてどれがどれより好きって決めにくいが、これは3番目に好き。かな。
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