R

水の中のつぼみのRのレビュー・感想・評価

水の中のつぼみ(2007年製作の映画)
4.4
若きミッドティーネイジャー女子3人のセクシュアリティーの苦悩を、3人の女子を通して、繊細に、微妙に描いた大変興味深い一作でした。始まってからずっと、ペースがゆっくり淡々としてるので、見続けるのきついかなーと思っていたのだが、じりじり巻き取られていきました。ホルモンが無駄にスパイクを起こし、気づけばテントを立て、目の前の課題に集中できなかったり、若気の至りドライブに駆られてしまう、うら若き男子の思春期とは対照的に、じっとり悶々と繰り広げられる女子の懊悩をはじめてガッツリ直視し、いやー、男子も大変だと思っていたが、女子の方が何倍も大変そうやな、と思わずにはいられなかった。まず、主人公のマリーは、陰鬱で、貧弱で、ぺちゃぱい、ぬぼーと諦観の浮かんだ表情は、不満で気が重い男子のそれのよう。彼女は親友マリーを見にシンクロナイズドスイミングの試合を見にきてて、年上女子の熟してスレンダーかつ豊満なボディーをうやらましげに見つめている。マリーの親友のアンヌは過重で爆乳で情緒不安定、体型を気にして、みんなが更衣室を出てから、ひとりで着替えをしていた。そのとき、空室だと思ってドアを開けたスーパーイケメン君に目撃されてしまう、隠していた、あたいのフルヌードを。そして、もう一人はフロリアーヌ、長身で、美しく、スタイルも抜群、ブロンドのヴァンプ。シンクロの艶やかなパフォーマンスに魅了されるマリーは、競技に興味を示すふりをしてフロリアーヌに急接近。パフォーマンス外では、人を寄せつけぬ不遜と傲岸の表情を浮かべ、お高くとまっているらしいフロリアーヌに、むっつりじっとりアプローチしていくマリー……あなた、それちょっとキモイよ、いや、だいぶキモい……しかし、フロリアーヌはまんざらでもなさそうだ。フロリアーヌは、周りをとりまくテストステロン暴走男子たちとファックアラウンドしているのよ!と、他の女子に噂され、敬遠されていた、そんななか、自分の淫靡な雰囲気に尻込みすることなく、ぐいぐい接近するマリー。その様子を涼しげに、少し面白そうに眺めるフロリアーヌ。だんだんと、あれ? マリー、ひょっとして、フロリアーヌへのその憧憬……実は恋愛感情じゃないの?と感じられ始める。マリーは、ある日開かれたパーティーで、フロリアーヌが先述のイケメン、フランソワとキスをしているのを見て明らかに嫉妬しており、ちなみに、アンヌもその様子を見て、あたしがフランソワとキスするはずだったのに! とショックでドン引きしていた。ある日、フロリアーヌはマリーを自宅に呼んで、マリーと出かけてくるね、と家族に伝え、マリーはその辺に置いといて、フランソワと秘め事にいそしむため、どこかへ消えていくのでした。それに苦痛を感じながらも、フロリアーヌから離れられないマリー。しかし、どこからどうみてもふしだらなビッチ、フロリアーヌにも、実は誰にも明かしていない秘密があるのであった……という流れ。個人的に本作の見どころは、少女が大人の女になっていく過程で直面する様々な問題、コンプレックス、友情、片思い、焦がれ、同性愛、性欲、秘密、孤独感などなどを、彼女たち自身の生活に入り込んで、非常に近いところから観察しているような気持ちにさせてくれるところかと思います。とにかく、男性というものは、女の感情の機微をまったく理解しない、またしようとしない傾向があるため、女を理解するためにも本作を見ると勉強になると思いますし、リアルでありながらいやらしい生々しさのない、ドライな筆致は、年増以上の女性が見ると、掘り返されたくない思い出を掘り返されたような、苦い懐かしさを感じるかもしれない。また、同年代の若者はいままさに起こっていることを、ヒリヒリするような痛みを持って押し付けられるような気持ちになるかもしれない。しっかし、男の僕から見ると、女という生き物は、大変なことがまじで多いな、と。それだけ社会から要求されるものが多いんだろうな、と感じた。男ってのは、呑気やわ。そして、シンクロナイズドスイミングは、本作のテーマにとてもよく一致している。我々の目の触れるところでは、優雅に、可愛らしく、余裕の表情で遊んでいるように見えるが、水面下をご覧ください。ある時は、ガニ股でバタバタ必死に水をかき乱し、またある時は、必死の思いで底に向かって自分を沈ませていく。どんなに冷静そうに見える女子でも、心の中はこれくらい激しく荒れているのよ! ということを伝えているかのようだ。また、腋毛チェックの厳しさもすんごい。最初何やってるんだかぜんぜんわからんかった笑 しっかし、イケてないほうの女子ふたりは、痛々しい感じがありながらも、まぁ何とかやっていけそうやけど、見目麗しきフロリアーヌは、その麗しさが呪いとなって、うまく人間関係を作ることができない、一見おいしい思いばかりをしているようだけど、ぜんぜんマイナスが多いなーーーと、美女の損をとてもリアルに感じた。そんな感じで、テーマ的にもおもしろいし、全編プライベートな緊密さを感じさせる映像の演出、心情とコントラストをなす鮮やかな色彩、などなど、いろんな見どころの詰まった、とても興味深い映画だった。結構癖になる雰囲気なので、もう一回見たいような気もしている。あと、めちゃくちゃどうでもいいけど、気になったのが、マリーの部屋にマドンナのアルバム『アメリカン・ライフ』のチラシが貼ってあったこと。おおー、同じ趣味だぁ!と一瞬うれしく思いました。あれもマリーの内的な葛藤を象徴してるのかな。あ、あと、忘れてはいけない、フランソワ君、ほんまにイケメンやった! 要注視!!! シャープで、優しく、残酷で、親密、秘密のフラワーベッドのような作品だったと思います。セシーヌ シアマいい監督ですねー。他の作品も興味が湧いてきたわ。
R

R