きまぐれ熊

東京物語のきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.0
おみおくりの作法の監督ウベルト・パゾリーニがフォロワーらしいので見てみる事にした。

なるほど、構図か。

めっっっっっちゃ偏執的。構図至上主義っていうか、なんなら役者よりも構図の方が大事だろこれ。って感じの執着が見て取れる。だって役者の配置まで構図意識してるもん。
ほとんどが日本家屋の屋内で展開するんだけど、低めのアングルからの定点カメラで、ずっと展開するんだけど、ず〜〜〜〜〜っっと相似形が絶対どこかにある。気付いたらそれしか目に入らなくて狂気的とさえ感じた。ヤバい。
尾道の古い日本家屋やら、東京郊外の戸建てやら、狭いアパートやら展開する住居は幾つかあるけど、全てのカットが家具の配置や大きさまでバチバチに決めまくった構図で展開する。箪笥や障子のタテヨコから始まり、遠景の山々や瓦屋根まで全部相似形。コワイ。でも美しい構図しかない。

家族の負の側面を描くストーリーに反して、映像はずっとキメキメで行くもんだから芸術的ではあるんだろうけど、より作り物っぽさが感じられて個人的には全く好みではないけど、好みとかじゃなくてなんかすげぇなって感じ。評価されてる事自体にはなんら不思議は感じない。

こっからネタバレあり。ネタバレされたとて痛くも痒くもないタイプの映画ではあるけど。

恐ろしい事にストーリーもまた相似形。
尾道から子供達の居る東京に旅行に行った老夫婦が、東京での旅を通して緩やかな家庭の崩壊(解体の方が適切かな?)を実感するという侘しいメインストーリーにたいして、戦死した次男の未亡人の紀子という既に解体されているもう一つの家庭が関わってくる。
東京旅行のすぐ後に無くなってしまった老夫婦の妻とみの葬儀を通して、夫の周吉は東京でよくしてくれた紀子を、その善意に報いる為に、今の家系から新しい門出に送り出すような言葉を伝える。つまり周吉&とみ、紀子とその夫、2つの家族の形の解体が対比されながら描かれる訳だ。ここまで行くと狂気だよ。

物語的にも面白いかどうかっていうと、全くおもんないけどw、でも自分の祖父母が亡くなっていく経験から言っても、その時感じられる侘び寂びは普遍性を持って描かれていると思えるし、美しいかどうかって訊かれればすごく美しい対比構造。ていうかおもろいとかそもそも狙ってないだろうけど。
個人的にはメッセージ性がバチクソに冷たいなと思うので、こういうタイプの映画は好んで見ないけど、芸術性は凄いですね。


ここまで書いてWikipedia見たけど、見立てがそこまでズレてなくて安心した〜。
頭を動かさない様に喋るのは変だ、と意見した笠智衆に対して小津監督は「君の演技より映画の構図のほうが大事なんだよ」って言い放ったそうな。いやそうだよな。この徹底した絵作りなら言ってそうだもん。おおよそ映画から受ける印象通りだわ。
ちょっとだけモノづくりに関わってる立場から言って、人間を使って作る作品においてその心情を無視した作り方を出来る人間は全く共感できないと同時にある意味尊敬の気持ちも覚える。ある程度サイコパスじゃないと作れない作品なんだよな。

ちなみに古臭さは全く感じなかったです。ストーリーには普遍性があるので、ちょっと聴き取りづらいセリフだけ我慢すれば、映画において面白みの読み解きが好きな若い人なら余裕で見れると思う。
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